2018 Fiscal Year Annual Research Report
Suppression of tumor metastasis based on the vascular homeostasis regulated by AM-RAMP2 system
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18J40224
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田中 愛 信州大学, 医学系研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | アドレノメデュリン / 腫瘍血管新生 / 転移前土壌 / 血管恒常性 / リンパ節転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
アドレノメデュリン(AM)と、その受容体活性調節タンパクRAMP2の血管恒常性維持機構を解明し、癌転移抑制法に展開するため、誘導型血管内皮細胞特異的 RAMP2 欠損マウス (DI-E-RAMP2-/-)を樹立し、検討を行った。これまでに、①DI-E-RAMP2-/-では皮下移植したメラノーマの増大が抑制される一方、Controlと比べ肺転移が亢進すること、②RAMP2欠損誘導後、転移先となる肺で転移前土壌の形成が促進することを報告した。 DI-E-RAMP2-/-では浮腫と体重増加を認めることから、血管透過性が亢進していると考えられた。そこで、培養細胞を用いてAMの細胞内シグナルを検討したところ、AM-RAMP2系はEpac-Rap1経路を介してVE-カドヘリンの発現を亢進し、内皮細胞間接着を強固にすることが明らかとなった。 一方、DI-E-RAMP2-/-の血管を電顕で観察すると、内皮細胞の空砲変性や、多数のマイクロビライとマイクロベジクル形成が認められた。そこでマウスより血管内皮細胞を初代培養してTNF-αによる刺激実験を行うと、DI-E-RAMP2-/-由来細胞ではControlに比べ、マイクロベジクル形成の亢進が確認できた。マイクロベジクルがエクソソームとして癌転移促進に働いているのではないかと考え、検討を進めている。 次にルイス肺癌細胞(LLC)を用いて、リンパ節転移を評価する新しいモデルを確立した。DI-E-RAMP2-/-では、Controlと比べLLCのリンパ節転移が亢進する結果が得られた。一方、新規に作成したリンパ管特異的RAMP2欠損マウス(DI-LE-RAMP2-/-)へのリンパ節転移の解析を行っており、AM-RAMP2系は血管恒常性維持に重要な役割を果たしている反面、リンパ管制御への関与もあるのではないかと考えて現在検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に従い、血管内皮細胞特異的 RAMP2 欠損マウス (DI-E-RAMP2-/-)の解析を進め、AM-RAMP2系の転移抑制のメカニズムに迫ることができた。本年度の研究では、AM-RAMP2系が血管内皮細胞におけるEpac-Rap1経路を活性化することで血管透過性を抑制することを明らかとした。さらにDI-E-RAMP2-/-の血管内皮細胞由来のマイクロベジクルが、腫瘍細胞の形質変化や転移を促進させる可能性も見出した。来年度は引き続き、その詳細な検討を行う。 さらに本年度の研究では、リンパ行性転移におけるAM-RAMP2系の意義についても検討を行った。当初はB16BL6メラノーマ細胞を用いて検討したが、リンパ節転移までに時間がかかり、評価が難しかったため、GFPラベルしたルイス肺癌細胞(LLC)を入手し、マウスの足底部に移植することで、膝窩リンパ節転移を評価する新規転移モデルを導入した。その結果、DI-E-RAMP2-/-では原発巣のサイズがControlよりも小さいにも関わらず、膝窩リンパ節重量が有意に増大しており、早期の段階から転移が生じていると考えられた。電顕では、DI-E-RAMP2-/-のリンパ節内の高内皮細静脈の構造異常が認められた。このことからリンパ節内の血管構造の異常が、リンパ節内に流入するリンパ球の数や局在に変化を生じているのではないかと考え、検討を進めている。 一方、リンパ管内皮細胞特異的に発現するProx-1のプロモーター下にCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウス(Prox-1-Cre Tg)を用いて、リンパ管内皮細胞特異的RAMP2欠損マウス(DI-LE-RAMP2-/-)を新たに樹立した。DI-LE-RAMP2-/-における原発巣サイズの変化やLLC細胞の転移実験を現在進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
DI-E-RAMP2-/-の血管内皮細胞では、多数のマイクロベジクルの存在が確認され、エクソソームとして働いている可能性を見出した。エクソソームは、マイクロRNAなどの機能分子を近傍や遠隔の細胞に送っている。DI-E-RAMP2-/-において、癌転移が促進する新しい機序として、血管内皮細胞が分泌するエクソソームを癌細胞が転移に利用している可能性を考えている。今後の研究としては、DI-E-RAMP2-/-の血管内皮細胞を蛍光標識し、炎症物質や癌細胞の培養上清による刺激を行い、エクソソームの形成課程を共焦点顕微鏡タイムラプスイメージングによって観察する。さらにセルソーターによってエクソソームを回収し、マイクロRNAの網羅的解析を進め、腫瘍細胞遊走因子や転移前土壌形成因子を同定する計画である。 一方で、AMのもう一つの受容体活性調節タンパクであり、RAMP2のサブアイソフォームであるRAMP3の機能の多くは未だ不明である。RAMP3-/-は、RAMP2-/-とは異なり、血管新生や発生に異常は認めず成体が得られる。またRAMP3-/-に腫瘍の皮下移植を行っても、腫瘍内血管新生に変化は認めない。これまでの検討で、RAMP3-/-では術後リンパ浮腫モデルにおけるリンパ管ドレナージが障害されることを報告したが、リンパ行性転移におけるAM-RAMP2、3系の意義は未だ明らかとなっていない。そこでDI-E-RAMP2-/-とDI-LE-RAMP2-/-、RAMP3-/-各々のマウスに対して、LLCを用いたリンパ節転移モデルの検討を行い、AM-RAMP2系とAM-RAMP3系の機能分化や相互作用を検討する計画である。
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