2019 Fiscal Year Annual Research Report
エネルギー代謝調節因子SIK2/3がおよぼす炎症・免疫応答系の制御機構の解明
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18J40240
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
堀家 なな緒 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | サイトカイン / 軟骨内骨化 / SIK3 / SCIDマウス / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトの全ての臓器は細胞を構成単位としており、細胞の増殖、修復、代謝、細胞間の情報交換の機能低下は、結果的に、疾病の発症や老化の大きな危険因子となる。情報交換を担うのは、組織から分泌される「ホルモン」や「サイトカイン」などである。骨は体を支え、血中カルシウム調節を行う器官としか考えられなかったが、オステオカルシンの発見により、骨から分泌されるオステオカルシンが全身のエネルギー代謝に関与しているという見方が出てきた。一方、このオステオカルシンには懐疑的な意見も存在し、オステオカルシンの生理的意義が確立されていない。本研究では、新しく骨から分泌され、他の臓器にシグナルを伝達し、エネルギー代謝、細胞増殖に影響する未発見の物質を探索する。2019年度は、ヒトiPS細胞由来軟骨組織をSCIDマウスに移植し、移植後3カ月で骨に分化していること、分化した骨組織は、ヒト由来であることを確認した。 また、骨の発生に関与するメカニズムである軟骨内骨化は、軟骨細胞の成熟、周囲組織での血管拡張、骨芽細胞分化、骨形成の過程において、エネルギー産生調整に依存している。肥大化が抑制されているSIK3ノックアウトマウスの軟骨組織では、ミトコンドリア呼吸より解糖が優位になり、脂肪酸酸化が亢進していた。この現象は、SIK3がミトコンドリア呼吸を促進しているのか、SIK3が軟骨肥大化を促進しており、SIK3ノックアウトマウスの軟骨組織では、肥大化が抑制されている結果、解糖が優位になっているのかは定かではない。代謝のスイッチングに関わるミトコンドリア脱共役因子UCP2の発現がSIK3ノックアウトマウスの軟骨組織で上昇していた。UCP2の阻害によるエネルギー代謝のスイッチングが、石灰化の条件に必要であること考えられ、UCP2は、軟骨細胞での新しい「シグナル伝達タンパク質」として機能することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト軟骨組織が免疫組織等他の臓器とネットワークを形成しているかを調べるために、ヒト軟骨組織から生理機能を持つ生理活性物質の単離を目指す。本年度は、3カ月経過したヒトiPSの細胞由来軟骨パーティクル移植マウスの移植組織が骨に分化していること確認した。HNA染色では、移植組織の細胞がヒトのものであることがわかった。さらに、ヒトiPS細胞由来軟骨パーティクルが軟骨分化誘導後8週間以内のものが、SCIDマウス移植後に骨に分化しやすいことが明らかになった。 また、肥大化が抑制されているSIK3ノックアウトマウスの軟骨組織では、ミトコンドリア呼吸より解糖が優位になり、脂肪酸酸化が亢進していた。2019年度は、幹細胞、癌細胞、免疫系の細胞などの解糖を利用する急速に増殖する細胞に非常に豊富に含まれ、解糖とミトコンドリア呼吸のスイッチングを担っているミトコンドリア脱共役タンパク質2(UCP2)に着目した。SIK3ノックアウトマウスの軟骨組織では、UCP2は、ワイルドタイプと比較して発現が増加しており、エネルギー代謝制御に関わっていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、準備したヒトiPS細胞由来軟骨組織を移植し、3カ月以上経過したマウスに、インスリン刺激、PThRP刺激を行い、血液を採取する。恒常的に分泌しているものも探索するため、何も刺激しないマウスの血液を採取し、LC-MS/MS 型質量分析装置にかけ、ヒトアミノ酸配列のデータベース上の遺伝子と一致するタンパク質を探索することで、新規分泌因子Xの同定を行う。同定した軟骨・骨組織由来の新規生理活性物質を、まずは、エネルギー代謝を制御する新規生理活性物質をスクリーニングし、以下の方法で機能を解明する。 1) 分泌因子Xの血中動態 新規分泌因子Xの抗体を作成し、マウス血液中での動態をELISAにより検討する。 2) 新規生理活性物質投与によるマウスのエネルギー代謝調節 バキュロウイルスを用いて発現精製したリコンビナントタンパク質をマウスに静注投与し、エネルギー代謝を検討する。 3) 遺伝子導入を用いたマウス体内新規生理活性物質の発現とその効果 新規分泌因子Xの骨組織特異的過剰発現マウスを作製し、野生型マウスと比較し、摂餌量・体重差を調べる。 また、軟骨組織において、SIK3とUCP2が、どのようにエネルギー代謝を調整し軟骨肥大化に関わるかを検討する。UCP2のプロモーター上には、PGC1で制御される領域が存在する。SIK3は、軟骨細胞で、PGC1を抑制していることから、SIK3-PGC1-UCP2系が、軟骨内代謝のスイッチングを行う機序を証明する。
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Research Products
(1 results)