2020 Fiscal Year Annual Research Report
植物寄生における、寄生―宿主植物間のシンプラスト輸送路の構築
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18J40278
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
古田 かおり 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-10-01 – 2023-03-31
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Keywords | 寄生植物 / 吸器 / 器官形成 / シンプラスト輸送 / 維管束篩部 / コシオガマ / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
寄生植物は、吸器と呼ばれる器官を宿主植物に侵入させ、水や糖などの栄養を得る。半寄生植物であるハマウツボ科のコシオガマでは、吸器において木部組織は宿主植物と連結されるが、篩部組織の連結は報告されていない。本研究では、コシオガマの吸器において、篩部様組織(シンプラスト輸送路)がどのように構築されるかを明らかにする。 本研究では、まず、シンプラスト輸送路を担う原形質連絡が、寄生植物の吸器と宿主植物の連結部で形成されるかどうか3次元電子顕微鏡イメージングを用いて調べることを計画していたが、本年度の研究において、篩部で輸送される複数のマーカータンパク質について、宿主植物からコシオガマ吸器への輸送は見られないことから、コシオガマは宿主植物の篩部輸送物をシンプラスト輸送では獲得していない可能性が考えられた。そこで、本年度は計画を変更し、まず吸器で発現しているシュガートランスポーターの解析を行うことにした。まず発現マーカーを作成し、一部のシュガートランスポーターはコシオガマ吸器の表面や内部などで発現していることを明らかにした。 また本研究では、コシオガマの吸器において、シンプラスト輸送路の細胞を同定することを目的としている。本年度はシロイヌナズナの篩部関連遺伝子のコシオガマ吸器での発現場所を調べた。まず、篩部の運命決定に必要なAtPEAR1遺伝子が吸器の基部で発現する様子を明らかにした。また、別の篩部関連遺伝子が、AtPEAR1とは異なる場所で発現する様子も見出した。このことは、吸器において典型的な篩部細胞とそれとは異なる篩部様細胞が存在する可能性が考えられた。そこで、このような新規な細胞の性質を明らかにする目的で、RNA-seqデータから探索したコシオガマ新規遺伝子について発現マーカーを作製した。また、シングルセルトランスクリプトーム解析を行うこととし、本年度はコシオガマ組織から核を抽出する条件検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず3次元電子顕微鏡イメージングを用いて、コシオガマ吸器と宿主植物であるシロイヌナズナとの連結部位に対して、シンプラスト輸送を担う原形質連絡を観察することを計画していたが、昨年度と本年度の研究結果によって、宿主植物の篩部輸送物の獲得については吸器先端におけるシンプラスト輸送の可能性が薄くなったので、計画を変更し、アポプラスト輸送路の解析も行うこととした。本年度はすでにアポプラスト経路に関わる可能性のあるシュガートランスポーターの発現マーカーを作成した。 また本研究では、吸器におけるシンプラスト経路の細胞の性質を、マーカー遺伝子の探索やトランスクリプトーム解析から明らかにする。本年度はシロイヌナズナの篩部関連遺伝子のコシオガマ吸器での発現場所も解析し、コシオガマ吸器のおける新たなシンプラスト輸送路細胞の存在の可能性を明らかにした。また、吸器のRNA-seqデータから、篩部関連遺伝子に注目し、吸器のシンプラスト経路の細胞のマーカーを探索し、得られた候補遺伝子について蛍光マーカーを作成した。また、セルソーティングを用いたトランスクリプトーム解析を行う計画であったが、吸器のシンプラスト輸送路細胞が複数種ある可能性も考え、本年度シングルセルトランスクリプトーム解析を行うことに計画を変更し、すでに条件検討を開始した。 さらに本研究では宿主植物の篩部のマーカーや突然変異体解析を用いて、寄生のプロセスにおいて宿主植物の篩部の形態変化や重要性を明らかにする。これまでの研究において宿主植物として篩部の突然変異体を用いたときに吸器形成異常を見出したため、その吸器形成異常を遺伝子レベルで解析する目的で様々な吸器の細胞マーカーを作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、コシオガマ吸器と宿主植物の連結部における光合成産物の輸送について、アポプラスト輸送路の解析も行う。まず、本年度までに作成したシュガートランスポーターの吸器内での時空間的発現パターンを解析する。また分子生物学的な解析から、これらの遺伝子のコシオガマの寄生における重要性を明らかにする。 また、吸器における新たなシンプラスト輸送路細胞の性質を明らかにするために、まず、吸器のRNA-seqデータから得られた篩部関連遺伝子マーカーについて時空間的発現パターンを解析する。これにより、吸器におけるシンプラスト輸送路細胞の存在場所と持ちうる性質を推定する。また分子生物学的手法により、この新たなシンプラスト輸送路細胞の形成機構や機能制御機構についても解析する。また、シングルセルトランスクリプトーム解析を行い、吸器の新たなシンプラスト輸送路細胞の性質を遺伝子発現レベルで解析する。 さらに今後は、寄生のプロセスにおいて宿主植物の篩部の形態変化や重要性を明らかにする目的で、宿主植物として篩部の突然変異体を用いたときに見られる吸器形成異常について、様々な吸器の細胞マーカーの時空間的発現パターンの解析を行い、宿主植物の篩部がコシオガマの吸器形成においてどの様に重要であるかを詳細に明らかにする。
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