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2021 Fiscal Year Research-status Report

理性主義的道徳理論の再構築とその応用─自然主義的道徳理論との新たな総合のために

Research Project

Project/Area Number 18K00003
Research InstitutionIwate University

Principal Investigator

宇佐美 公生  岩手大学, 教育学部, 嘱託教授 (30183750)

Project Period (FY) 2018-04-01 – 2023-03-31
Keywords道徳の虚構性 / 自然主義的道徳理論 / 情動理論 / 理性主義 / 道徳教育 / 尊厳 / 権利 / モラル・エンハンスメント
Outline of Annual Research Achievements

本研究は、理性主義による道徳の根拠づけや判断機能の説明に対して自然主義の側から提示された様々な批判の意義を検討するとともに、道徳的規範や道徳判断に関する理性の機能と意義を再検討し、道徳に関する理性主義と自然主義との新たな統合の可能性を提示することを目的としている。
本年度は自然主義的道徳理論の立場から見たとき、理性主義的で形而上学的道徳理論が、あとづけ的な説明でしかなく、その道徳理論は自然選択によって獲得・蓄積された感情的諸反応に上書きされた虚構でしかないという主張の意義を確認しつつ、他方で脳神経科学や進化生物学、ゲーム理論などの研究成果を承けた暴露論法による道徳の反実在論が道徳にもたらす意義を検討した。そして感情的反応などの生物学的基礎が道徳的反応(動機づけなど)の必要条件であるにしても、それが理性の機能や道徳の実在性を排除する根拠になり得るか否かについて検討の余地があること、さらに反実在論の主張が正しく、環境への適応関係がヒトの実質的動因であるとしたら、近年の精神医学上の知見を背景に、「人権」や「尊厳」などの近代的な道徳概念とは相容れない人間の能力の開発(エンハンスメント)も許容されうるかどうかについて検討した。その一方で新たな人類学研究では、人類の自然選択において道具や技術のみならず、価値観や信念、規範といった文化の要素の展開が、人間の行動のみならず生理や遺伝子などの生物学的基盤に及ぼした影響の意義が注目されており、そうした研究を踏まえ、ある種の形而上学的思想が人類の進化に与える影響の可能性を再評価するとともに、道徳的概念の学習が生得的とされる感情的反応にも作用しうる可能性を道徳教育の実践を通して確かめるための方法を構想した。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

昨年度は、理性主義的道徳理論の正当化に対する自然主義の批判を取り上げながら、他方で自然主義の一例である情動主義(Emotionism)の道徳理論の検討からは道徳性の構築にあたり理性的能力の参与の余地が残されていることが確認できたが、どのような形で普遍性や規範性など道徳における理性能力の働きの場を確保するかについて、本年度中に十分な検討を行うことができなかった。
ただし本年度は、改めて道徳の非実在性、虚構性を導く暴露論法等のメタ倫理学の議論を検討する過程で、人類進化のある段階から文化の蓄積が人間の生物学的基盤に及ぼす影響の大きさに注目する人類学の新しい研究を参考にすることで、道徳についても理性主義と自然主義との理論的統合への示唆を得ることができた。そうした研究と並行し、理性主義の代表とされるカント自身が、道徳の非実在性の可能性とそれに伴う課題を視野に収めつつ、反面で形而上学的実在論を単純に標榜することの難しさ(独断性)をも考慮していたことを確認したが、そこで道徳の虚構性を超えるためのカントの「実践的理念」という発想は、現代の理性主義において必ずしも十分に活かされておらず、その点を再考することが本研究の目的との関連で有用であると考えられたが、これについても年度内には十分に展開することができなかった。
なお、本年度中に行う予定にしていた道徳教育における感情的反応への配慮と学習を通した理性的思考・判断の能力の育成の試みに関しては、コロナ禍の制約の下ではあったが、ある程度研究を進めることができた。

Strategy for Future Research Activity

これまでの研究から、道徳に関する生理学的で感情論的基礎の意義に加えて、そうした感情に一定の作用を及ぼす広義の理性的機能の意義の可能性について、人類学や脳神経科学などの新しい研究成果を参照することで有意義な示唆を得ることができた。そこで得た知見をもとに、メタ倫理学の観点から、感情の働きを考慮に入れた道徳に関する自然主義と理性主義との統合に関する構想と、その実践的応用の可能性について検討する予定である。
その際、カントが語る形而上学的概念の自然主義的観点からの解釈とその実践的の意義に関する考察を参照する予定である。カントは人間理性には無制約者を探求してしまう自然的傾向性があることに着目し、それが独断的形而上学を将来する危険性に関し批判的に考察した一方で、その実践的活用の可能性をも示唆していたが、この形而上学的理念の実践的活用の意義を、現代のメタ倫理学の視点から捉え直すことで、自然主義の知見をも考慮に入れた一種の「構成主義」的実在論の形で新たな道徳理論を構築してみたいと考えている。これに近い試みは、これまでも現代のカント主義的理性主義者たちによって幾通りか既に提示されてきたが、それら既存の試みと本研究との異同、とりわけ自然主義による「あと付け」理論という理性主義への批判に対する回答にも配慮した新たな理論の構築可能性を検討してみる予定である。

Causes of Carryover

本年度は、道徳心理学や精神医学等の研究者からの専門的知見を求めたり、道徳理論関係の研究者との意見交換のための出張や研究会の参加を予定していたが、いずれも新型コロナウイルス感染症の蔓延により、研究施設への訪問や密な環境での研究、移動等が制限されたため、昨年度から繰り越して本年度に予定していた意見聴取や研究打ち合わせ等も引き続き実施することができなかった。そのため計画を一年延長させていただき、次年度に感染症予防対策に配慮しながら、各分野の研究者からの専門的知見の聴取、研究打ち合わせなどを行う予定である。

  • Research Products

    (3 results)

All 2022

All Journal Article (2 results) Book (1 results)

  • [Journal Article] 道徳の虚構性をめぐって2022

    • Author(s)
      宇佐美公生
    • Journal Title

      岩手大学文化論叢

      Volume: 11 Pages: 1-12

  • [Journal Article] 生徒の主体的な参加を促す「考え,議論する」道徳教育プログラムの開発(4)2022

    • Author(s)
      宇佐美公生、室井麗子、大瀧航
    • Journal Title

      岩手大学教育学部教育実践研究論文集

      Volume: 9 Pages: 56-61

  • [Book] 尊厳と生存2022

    • Author(s)
      加藤泰史・後藤玲子(編)
    • Total Pages
      494
    • Publisher
      法政大学出版局
    • ISBN
      9784588151255

URL: 

Published: 2022-12-28  

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