2018 Fiscal Year Research-status Report
プラトンによる魂の原的把握についての問答法的・国際的研究
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18K00004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
荻原 理 東北大学, 文学研究科, 准教授 (00344630)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 魂 / 古代哲学 / 幸福 |
Outline of Annual Research Achievements |
台北、北京での学会で、プラトン『国家』第7巻における、教育と関連した強制について発表した。強制が、初めは本人の意に反してという意味だったのが、やがて「魂の目」の下降傾向に反してという意味になると論じた。強制されるのは各人ではないという点も指摘した。 第11回国際プラトン学会大会での発表論文が選抜論文集に採択され公刊された。『パイドン』における魂不滅最終論証の大詰めで、対話相手ケべスの応答が、魂の不死性と永遠性の関係についての謎めいた理解を含意していることを指摘し、背景にある考えを推測した。魂は自らによって生命をもたらされているがゆえにその生命供給は絶えることがない、という考えである。ケべスのこの考えと、『パイドロス』におけるソクラテスの魂不死論証とがともにアルクマイオンの考えと繋がっている可能性を示唆した。 単著『マクダウェルの倫理学――『徳と理性』を読む』を勁草書房から刊行した。マクダウェルの難解な倫理学的議論(アリストテレスら古代ギリシャの洞察の復権をもくろむ)をわかりやすく解説しようと試みた。解説とはいっても筆者自身の、ときに立ち入った諸見解を示しており、マクダウェルの論敵であるブラックバーンと筆者との応酬をも収めている。徳を<そのつどの状況からいかなる行為を要求されているかを見て取る能力>と捉えるマクダウェルの立場が有望であることを示そうとした。その立場は、合理性をめぐる近現代的偏見(人間の実践の合理性は当の実践に外在的な視点から正当化できなければならないとする)の鋭い批判と軌を一にしている。 論文「浮気されれば気付かなくてもその分不幸になるか――という問いをきめこまかくする――」を『思索』に発表した。幸福は経験に他ならないとする立場に批判的な方向を取りながらも、ある人の幸福いかんをその人自身の幸福観(経験主義や反経験主義)にある程度まで相対化しうることを提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第12回国際プラトン学会大会(テーマは『パルメニデス』)で発表すべく、要旨を提出して応募したが、採択されなかったのは残念である。言い訳をすれば、主として、(次に述べる)単著の刊行準備のために、十分な時間が取れなかった。要旨に記したアイディアを練り直して、別の場所で発表したい。 だが、台北での国際プラトン学会アジア大会、北京での世界哲学会にて、プラトン『国家』第7巻の、教育と関連した強制について発表し(英語)、その魂論的特質に注意が向けられた。また、単著『マクダウェルの倫理学』(邦語)が勁草書房より刊行され、倫理的な事柄(あるいはより広く「価値」)についての古代的な「心の哲学」が、近現代的な見方との対比で明確に論理化された。また、プラトン『パイドン』についての発表の改訂版(英語)が第11回国際プラトン学会選抜論文集に採択され、プラトンの著作における魂の本性をめぐる一つの把握(生命の供給に関わる)に光が投げかけられた。また、幸福についての経験主義についての論文(邦語)が『思索』誌に発表され、幸福感、幸福観、幸福のあいだの微妙な関係(幸福が幸福観との関連でフレキシブルでありうること)に注意が向けられた。また、プラトン『ピレボス』についてのGarner氏の著書の書評(英語)がClassical Review誌に刊行され、『ピレボス』における善と存在との関係の独自の理解の検討を通じて、後期プラトンの思考を見る一つの視座が確認された。以上のことは、本研究課題の研究がおおむね順調に進展していることを示すだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
プラトン『ピレボス』の魂論をさらに掘り下げたい。そのさい、同篇後半部最初の箇所における<魂と身体の対比>というトピックの扱いに注目したい。 『ピレボス』の問題意識を背景として、同じくプラトン後期の『ソフィステス』・『政治家』の諸問題へと道をつけたい。 著書『マクダウェルの倫理学』を諸賢に検討してもらい、私がマクダウェルに賛同して示した古代的な「心の哲学」の有効性を改めて吟味したい。 エピクロスの魂論の本格的な研究に着手したい。 以上の諸目的のために、海外の研究者を含む一流の研究者と意見交換を活発に行ないたい。
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Causes of Carryover |
次年度に重要な研究文献が刊行されるとの情報を得、本年度には研究文献の購入を若干控え、次年度の購入を控えることにした。 また、次年度7月のパリ出張には相当の費用がかかるものと予想され、若干を本年度の予算から回すのがよいと考えた。
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Research Products
(8 results)