2019 Fiscal Year Research-status Report
プラトンによる魂の原的把握についての問答法的・国際的研究
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18K00004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
荻原 理 東北大学, 文学研究科, 教授 (00344630)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プラトン / 魂 / 古代哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
プラトン『ピレボス』の研究書がオクスフォード大学出版局から刊行された。世界第一線の研究者チームの共同作業で、Plato Dialogue Projectシリーズの第1冊である。研究代表者は同対話篇の31b-36cを担当、そこでの考察を、魂が身体からの影響を受動的に受けるだけの最もプリミティヴな場面から出発し、徐々に、そのつどの観点から、魂が身体からの独立性を示すますます重要な局面を見出していくものと特徴付けた。 『世界哲学史 I』のヘレニズム哲学の章を担当、ヘレニズム哲学をそのイメージと実像の両面から描き、ストア派・エピクロス派の体系(魂論を含む)を、哲学的主張の明確化に努めつつ提示した。 研究代表者の著書『マクダウェルの倫理学』の書評会が2019年9月8日、現代倫理学研究会の1回をあてて外語大本郷にて開催され、古田徹也氏、高橋久一郎氏らと意見交換、また、土橋茂樹氏、茶谷直人氏の著書と同時に拙著を書評する会が同年12月14日に北海道大学で開催され、千葉惠氏らと意見交換し、マクダウェルやアリストテレスの徳把握等の理解が進んだ。 国際プラトン学会のインターネット・ジャーナルに納富信留氏と共著で、日本語によるプラトン研究を紹介する寄稿を発表した。前半で納富氏が近年の日本語のプラトン研究を概観、後半で研究代表者はとくに丸橋裕氏『法の支配と対話の哲学――プラトン『法律』篇の研究』(京都大学学術出版会、2017年)を紹介・批評した。 2020年3月7日、北海道大学にて開催の千葉惠氏『信の哲学』を検討するシンポで、マクダウェエルやアリストテレスの道徳心理学との関連で千葉氏の著書を論評、魂の分裂の問題にも論及した。 2019年7月中下旬、国際プラトン学会パリ大会に参加、Luc Brisson, Giovanni Ferrariら世界第一線の研究者と意見交換し、今後の研究のための展望を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Dimas, Jones and Lear (eds.), PLATO'S Philebus (Oxford UP, 2019) への寄稿は、世界第一線の研究者に伍して一流出版社から刊行した業績であり、プラトン『ピレボス』における魂把握の独特の解釈を提示しており、重要な成果を上げたものと自己評価する。 画期的な事業となるであろう『世界哲学史』全8巻(ちくま新書)の、第1巻中「ヘレニズム哲学」の章では、「世界哲学史」そのことの理解についても〈哲学の、世に通用するイメージと、実像との双方を見るもの〉という独自の視点を示し、かつ、エピクロス派やストア派の主張の哲学的意義の明確化を試みてもおり、意義があるものと自己評価する。 前年度に刊行された拙著『マクダウェルの倫理学』は2本の図書雑誌で書評され、2回の書評会は催され、マクダウェル研究に新局面を開くものと高く評価されている。丸橋裕氏のプラトン『法律』についての著書(日本語)を海外に紹介し、同書における「言論の自由」の理解に異議を唱えるといった研究者との対話を着実に積み上げている。千葉惠氏の「信の哲学」の検討を通じて、魂論と信仰の関連という、研究代表者がこれまで本格的には考えてこなかった問題に着手し、魂把握研究の新たな展望を得つつある。 内外の研究者(中畑正志、納富信留、ジョヴァンニ・フェラーリ、トマス・ヨハンセンら)との意見交換を通じて、プラトン・アリストテレスにおける魂の原的把握の考察を展開する視座が得られている。魂把握と「像」との関連への関心が芽生えている。 上記のように、研究の推進に向けて着実に成果を出してはいるものの、ソクラテスの魂把握、プラトンの魂把握の *総体*、アリストテレスの倫理学と『魂について』の関連、等について、なお解明すべき事柄が多々残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画されていた研究活動のうちのあるものは、新型コロナウィルス感染拡大防止のために、遂行が不可能ないし困難になっている。シンポジウムや講演会だけでなく、少人数によるものであっても「対面式」の研究会はすべて、開催を見送らざるを得ない。大学の図書館が閉鎖し、書店に出かけることも控えるよう求められているため、紙媒体の書籍へのアクセスも制限される。対策としては、まず研究集会については、規模の比較的大きいものについては、コロナが落ち着くまで開催を待つことにし、オンライン会議や電子メールでの意見交換を活発に行なうことになろう。書籍へのアクセスについては、通信販売を利用し(その利用さえなるべく控えるよう求められているが)、手許にある書籍や、電子的にアクセスできる文献を用いてできる研究を行なうことになろう。 研究代表者は、国際プラトン学会の地域大会である、ソウル国立大学にて11月27-29日に開催予定の学会 'Image and Imagination in Plato' の実行委員の1人であり(代表は同大学の Sung-Hoon Kang氏)、研究代表者自身、当学会での研究発表を希望しており、この発表は本課題研究の一環となるであろう。ところが、本学会が開催できるのか、オンラインで行なうことになるのか、等、先行きは不透明である。 いずれにせよ、今後、まずは、プラトンにおける魂把握と「像」の関連についての研究を、とくに『ソフィステス』、ほかにも『国家』、『パイドロス』、『饗宴』、『パイドン』、『ティマイオス』、『プロタゴラス』など、さらには新プラトン主義の文献等の精読を通じて進めたい。アリストテレスの倫理学と魂論との関連についても、ひとつには、生物学が倫理学を基礎づけるのかをめぐる解釈者の論争を糸口に、研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
年度末に予定されていた研究会(イリソスの会〔京都〕)への参加を、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から中止した。 次年度も少なくともしばらくの間は同じ理由で研究活動が制限され、予算を使用する機会も限られることとは思うが、ロナが首尾よくおさまった場合、11月27-29日にソウル国立大学にて開催予定の国際学会地域大会 'Image and Imagination in Plato' に、オーガナイザーの1人として、そして発表要旨が選考を通過した場合には発表者として参加する。だが、その学会がオンライン開催になるか、延期または中止となった場合には、古代の魂論やそれ以外の時代の魂論・こころ論の研究文献(電子媒体・紙媒体)の購入にあてる。
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Research Products
(4 results)
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[Book] Plato's PHILEBUS: A Philosophical Discussion2019
Author(s)
Paolo Crivelli, Pierre Destrée, Panos Dimas, Mary Louise Gill, Verity Harte, Russell E. Jones, Sean Kelsey, Gabriel Lear, Hendrik Lorenz, Susan Sauvé Meyer, Jessica Moss, Satoshi Ogihara, Giles Pearson, Spyros Rangos, Katja Maria Vogt, and James Warren
Total Pages
304
Publisher
Oxford University Press
ISBN
9780198803386