2018 Fiscal Year Research-status Report
「謝罪とは何か」に関連する諸問題についての哲学的な考察
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18K00006
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
川崎 惣一 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (30364988)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 哲学 / 倫理学 / 謝罪 / 人格 / 責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の初年度に当たる平成30年度は、研究テーマ全体に対して一定の見通しを得ること、またそれによって今後の研究計画をより具体的かつ効果的なものとなるようにすること、以上を念頭に、「人はなぜ謝罪するのか」という問いに対して哲学的なアプローチを試みた。 研究成果はおおむね以下の通りである。 一般に、謝罪の目的は「過去の過ちを償うこと」にある、と理解されているように思われるが、過去を書き換えることはできないし、後悔や自責の念だけでは、私たちを謝罪へと促す理由としては十分ではない。むしろ謝罪は、未来における個人のアイデンティティや、人々の間の関係をよりよいものにするために為される、と理解されるのがふさわしい。 私たちは個別の行為をその担い手である人格に結びつけて理解するという傾向を持っている。過ちとされる行為は、その担い手である人格の評価を著しく下げるであろうし、反対に、加害者は謝罪することによって自らの人格的評価を高めることができるであろう。ただし、謝罪によって加害者が後悔や自責の念から解放されるかどうか、被害者が苦しみや傷つきから癒されるかどうか、加害者が被害者から赦しを得られるかどうかといったことは事前に確実に予測できることではなく、その意味で謝罪はつねに「賭け」であるが、それでも人があえて謝罪に踏み切るのは、加害者たる自分自身および被害者、そして両者を取り巻く人々のよりよい在り方とお互いのよりよい関係の構築を目指してそれを実現したいと願うからである。 したがって、謝罪の意義は〈加害者と被害者、および両者を取り巻く人々との間によりよい人間関係を(再)構築すること〉にある。そしてこのことから、私たちが謝罪する根本的な理由は、私たちが社会的かつ倫理的存在であり、未来において、他者たちと共に、幸福でより善い生を送ることを望むからだ、と見なすことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究成果の概要」冒頭に記したように、本研究の初年度に当たる平成30年度は、研究テーマ全体に対して一定の見通しを得ること、またそれによって今後の研究計画をより具体的かつ効果的なものとなるようにすること、以上を念頭に、「人はなぜ謝罪するのか」という問いに対して哲学的なアプローチを試みた。 これによって、謝罪の意義が〈加害者と被害者、および両者を取り巻く人々との間によりよい人間関係を(再)構築すること〉にあること、また、私たちが謝罪する根本的な理由は、私たちが社会的かつ倫理的存在であり、未来において、他者たちと共に、幸福でより善い生を送ることを望むからだということ、このことを明らかにすることができた。 この成果を踏まえて、今後は具体的な場面での謝罪の具体的なありようを取り上げつつ、謝罪の問題系に対して考察を深める準備が整ったと言える。本研究テーマは哲学・倫理学のみならず、政治学、法学、歴史学、社会心理学などさまざまな分野にまたがるものであることから、「人はなぜ謝罪するのか」という根本的な問いに関して一定の見通しを得られたことは、今後の研究を進めるうえで非常に有用であると考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究計画書に記したように、本研究の目的は「謝罪とは何か」に関連する諸問題についての哲学的な考察を行うことであり、またそれをより具体的に言えば、「謝罪」へと私たちを促す動機づけの問題の解明と、またそのことを通じて、「責任とは何か」という原理的な問いに対して新たな論点および切り口を提示すること、となる。 そこで今後の研究の推進方策としては、「謝罪」への動機づけの問題と「責任とは何か」という問いを有意義な仕方で切り結ぶためにはどのような方途が可能かを探ることがあげられる。まず、「責任とは何か」という原理的な問いについては、これまでに多くの研究成果があるため、それらをサーベイし、有効な論点を洗い出す作業が必須となる。ただし、本研究は「責任とは何か」という問いそれ自体を掘り下げていくものではなく、あくまで「謝罪とは何か」という問いかけを基盤としていることから、責任の問題へのアプローチに関しても、一定の制約のもとにある。 本研究の研究計画書では、本研究の特徴として、「行為の責任の帰属の問題」および「謝罪による対他関係の再構築」という二つの論点に焦点を当てることをあげた。後者については、初年度の研究成果において一つの道筋を示すことができた。それは、私たちを「謝罪」の意義とは「よりよい人間関係を(再)構築すること」であり、その土台には、「私たちが社会的かつ倫理的存在であり、未来において、他者たちと共に、幸福でより善い生を送ることを望んでいること」がある、というものである。そこで本研究の今後の研究推進にあたっては、上記の二つの論点のうちの前者すなわち「行為の責任の帰属の問題」に重点を置き、既存の研究成果を十分に参照したうえで、それを本研究に資するような仕方で活用し、展開していくことが有効であると考えられる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、研究のための資料購入に関して年度末に若干の余りが出たためである。この残額については、次年度の物品費に繰り越して使用する予定である。
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Research Products
(1 results)