2019 Fiscal Year Research-status Report
The inquiry about phantasy and image consciousness in the phenomenological thoughts --- from Husserl's thought
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18K00007
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小熊 正久 山形大学, 人文社会科学部, 名誉教授 (30133911)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 画像 / 想像 / 表象媒体 / 現象学 / 言語 / 絵画 / フッサール / メルロ=ポンティ |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者は、2019年度に著書『メルロ=ポンティの表現論―言語と絵画について』を刊行した。ソシュールは、言語記号は体系をなし、シニフィアンの面をとってもシニフィエの面をとっても記号相互の差異と関係からなるとし、その洞察によって、言語記号が実体的な意味を指し示すという伝統的な考えを打ち破った。メルロ=ポンティはソシュールの見方を継承しつつ、言語体系の通時的変遷やパロール(語ることによる言語活動)における創造性の考察を行った。メルロ=ポンティはまた、絵画表現についても考察した。『眼と精神』では、『知覚の現象学』でゲシュタルト心理学を参照しながら考察した「知覚における意味」や「身体的意味」をもとに、人間が動的活動としての知覚を基盤にして身体的存在として描画することとその意味を考察した。さらに、『間接的言語と沈黙の声』では、言語表現における意味と絵画表現の意味をパラレルにあるものとして考察した。その際、フッサールにみられる身体論や知覚野における諸対象の前述定的な類型的意味の把握や間主観的世界の把握がその背景にある。 拙書はこのような構想のもとで、フッサール、ソシュール、メルロ=ポンティに依拠しながら表現媒体について考察した。そのさい、「意味」のあり方を考えるさいにプラトンからフッサールまで問題になってきたイデア論的思想や、古来からの知覚論(エピクロスやデカルト)、感性と悟性の媒介を「想像力(構想力)」に求めたカントの思想なども含めて考察し、メルロ=ポンティの考察が、フッサールの現象学を継承しつつ表現媒体の考察において新局面を開いたことを示した。 こうして、同書は、つぎの「現在までの進捗状況」においてもみるとおり、フッサールにはじまる表現媒体についての現象学的なアプローチのメルロ=ポンティによる展開を跡づけたという意義をもつ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者は2018年度論文「フッサール現象学における「想像」と「画像意識」の分析」を発表した。これは、長年の研究の総括であり、本研究課題の基盤を確定したものである。当論文は想像と像意識(画像についての意識)に共通の「中立性変様」(「あたかも~である」という非現実性の意識)の概念を明確にしたうえで、「再現前化」(思い浮かべる)の作用の中での「想像」の特徴を明確にし、「像意識」の契機としての「像物体」「像客体」「像主題」の区別を明確にし、とくに「像客体」が「像」という現象の中心にあることを論じた。また、1913年以降「中立性変様」が上のことだけでなく、美的風景の観照や演劇鑑賞においても働くと捉えられていることも明確にした。この点はフィンクの遊戯論ともつながる。 つぎに2019年書物『メルロ=ポンティの表現論―言語と絵画について』を刊行したが、それは表象(表現)媒体の考察を含む。フッサールのいう志向性の構造は「主体-ノエシス-ノエマ-対象」で表すことができる。「志向性」の記号的表象、想像的表象、知覚的表象という分類の中にすでに表象媒体への注目は含まれていたが、後期思想において言語活動や媒体の重視がみられ、その点を考えると、ソシュールのシニフィアン・シニフィエを「ノエシス-ノエマ」の実質とみることができる。こうして、言語については、ソシュールやメルロ=ポンティの考察を表現の現象学的アプローチを見ることができる。また、像意識は「ノエシス―ノエマ」の一環として考察することができるが、メルロ=ポンティの絵画論も、像意識を身体や描画という表現活動に注目しながら展開したものと考えられる。 以上のように、表象媒体についてのフッサールの思想の展開をメルロ=ポンティの表現論に見ることができたことにより、研究課題の半ばを果たすことができた。本研究は、おおむね順調に進展していると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、以下の二つの方途により、研究課題の完遂に努めたい。 第一に、フッサールの影響下に想像論、画像論、遊戯論を展開したオイゲン・フィンクの思想の追究である。フィンクはフッサールの助手を務めたが、その頃の論考に「再現前化と像」がある。これは、フッサールの思想を参照しながら、自説を述べたものであるが、その特徴は、再現前化作用や像を世界への関連として把えたことにある。またそこにみられる「非現実性」の分析はのちに「遊戯論」が展開される基盤となった。 彼はその後の『人間的現存在の根本問題』で、フッサールの「中立性変様」に表されている「非現実性」の思想を活かしながら、「遊戯」を、有限な「現存在」(人間)の根本現象として扱っている。その際中心にあるのは、「遊戯」を「非現実的」世界との関わりとする把握であり、それが、多様な視角から分析されている。重要点は以下の通りである。「像意識」との類比。遊具や小道具にみられるような魔術的仮象的な関わり。遊戯と錯覚の違い。観客と演技者の間に打ち立てられる共同性。遊戯による非現実的世界の呈示が世界内存在(現存在)の諸相―死、愛、労働、支配―を映すものであること。再現前化の反復的関係としての「劇中劇」の役割―「現実と仮象」の関係を劇の中で見せること。以上の点を、代表者は、フッサールの画像論、想像論の「非現実性」という観点からの展開と捉えうると考えている。 第二に、代表者は、サジャマほか著『現象学入門―歴史的観点から』の翻訳(木下喬訳)の編集と解説執筆を行っており(校正中)、同書は、「志向性」の「内容理論」の歴史的展開を通して当該理論の内実を紹介したものであり、この作業は、本研究のテーマ「表象」の背景にある「志向性」および「意味」(ノエマ)についてのフッサールの考えを――とくに地平や可能性という点で――明確化し深化するために有益である。
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Causes of Carryover |
2020年2月28日から2月29日まで、香川大学において「想像と画像についての研究会」(代表小熊)の研究会を開催予定――そのための人件費、旅費――であったが、新型コロナウィルス感染防止のため中止せざるをえなかった。そこで、2020年度に時期をみて、人件費、旅費を使用して、同研究会を開催し討議の成果を本研究に活かす予定である。
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