2019 Fiscal Year Research-status Report
A Philosophical investigation concerning the attribution of responsibility on the basis of the analysis of the concept of causation: In the light of problems on causation by absence
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18K00008
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
一ノ瀬 正樹 武蔵野大学, グローバル学部, 教授 (20232407)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 責任 / 因果 / 厳格責任 / 知識の因果説 / 信念の倫理 / 条件文 / 不在因果 / 触法精神障害者 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、責任概念研究の基盤となる因果概念に研究に関して、大きな進展があった。そのことは、主として、岩波書店「現代哲学のキーコンセプトシリーズ」の『因果性』に掲載された解説「因果関係は存在するのか」において達成された。そこで私は、『因果性』の著者ダグラス・クタッチが論じている現代因果論に関して、情報として欠けている歴史的背景についてやや詳しく補足的に論じた。そこでのポイントは、因果関係を問題にすることの原点は、神が世界を創造した、とする、形而上学的な因果観念適用の様相にあったこと、しかしそれが徐々に、私たちの現実世界の諸事象に関して適用されるように変容されてきたこと、けれども、世界外にいる神が世界を創造したという形で現れる形而上学的因果概念のありようが、いかなる因果概念適用の場面にも伏線として潜在していること、こうしたことを明らかにした。このことは、責任論に関しても重大な影響を及ぼす。すなわち、責任帰属というのが、かならずしも加害者の自由意志とか責任能力とか、そうした加害者に内在的な性質だけで割り切れるものではなく、いわゆる「厳格責任」の概念に現れているような、外在的な形での条件にも依存するものであるし、そうでなければならないという側面も持つ、という含意を責任概念理解にもたらしうるのである。こうした論点は、いわゆる「触法精神障害者」の刑事責任、といった困難な問題系に対しても重大な示唆をもたらすであろうと思われる。それ以外に、知識概念に関して条件文の分析を通じて不在因果による解明を試みた、新しい知識の因果説の提言を行う論文を『イギリス哲学研究』に発表した。これは、見込みとしては、いわゆる「信念の倫理」という、現在ホットに論じられている分野への貢献にもつながりうる、そうした内容の論文ではないかと自己評価している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画には必ずしも期待されていなかった「信念の倫理」あるいは「認識的責任」に関する思考が少しずつまとまってきたことは、予想以上の研究の進展である。「信念の倫理」とは、知識や信念を持つ主体の、それを持つに至った動機や、主体自身の徳性、を主題化として、認識論の中に倫理的考察を交差させようとする、近年ホットに論じられている分野で、残念ながら我が国ではほとんど研究がなされていない分野である。この分野に関する議論が、私の研究の延長線上に立ち現れてきて、自覚的に主題化するべきものとして射程に入ってきた。これは、当初の研究計画では想定していなかった方向性であり、しかし、私の研究計画に照らすならば、まことに本質的な問題領域であることが分かってきた。今後、せっかく捕まえつつあるこの分野の研究について、さらに議論を詰めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
「信念の倫理」に一つの焦点を合わせ、その「徳認識論」との関係性について、考察を深めていきたい。「信念の倫理」の発端とされる、19世紀のクリフォードの議論にまで遡って、また、それを20世紀に発展させたロデリック・チザムの古典的な議論も詳細に検討して、現代的文脈における「信念の倫理」の論争状況を踏まえて、新しい見地を開拓していきたい。そこでの主題の一つは「正当化」という概念の捉え方であり、もう一つの重要な主題となりうるのは「知的財産権」の概念の哲学的認識論においての位置付けである。こうした、かなり未踏の領域がある問題群に対して、勇気を持って立ち向かっていきたい。
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Causes of Carryover |
消化できなかった少額の残金は、必要な文献の多くが年度内には刊行されなかったという事情のゆえである。 次年度は、できるだけ既刊ま書籍を使用することにして、残額を出さないようにしたい。
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Research Products
(18 results)