2019 Fiscal Year Research-status Report
生命認識における概念の役割と規範--ヘーゲル自然哲学への科学史からのアプローチ
Project/Area Number |
18K00009
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大河内 泰樹 京都大学, 文学研究科, 教授 (80513374)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自然哲学 / 生物学 / ヘーゲル / ビシャ / フォン・ハラー / 有機体 / 死 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、ヘーゲルが参照した当時の生物学書の一つであるビシャ『生と死の生理学研究』〔1800〕、シェリングの『自然哲学の考案』(1797年)、フォン・ハラーの「刺激反応性・感受性」説を中心に検討を行い、当時の生物学のドイツ観念論自然哲学への影響について知見を深めた。特に、ビシャの理論はその生気論と並んでヘーゲルが死を有機体の理解において重視する視点に影響を与えていることが明らかとなった。 またその知見を踏まえてヘーゲル『精神現象学』における「観察する理性」の記述を再検討し、このテキストが従来いわれてきたようにカントの『判断力批判』に対する批判であるのみならず当時の生物学に対する根本的な批判でもあるという主張の裏付けを得た。さらに、この批判を『大論理学』における「生命」概念および『エンチュクロペディ』自然哲学における有機体論の記述と比較することで、批判対象が同時に体系の一部となっているというヘーゲルの体系の特殊性が明らかになるとともに、それがさらに有機体の存在としての誤謬性という特異なテーゼを帰結することが問題として確認された。 2021年2月に開催予定の国際会議を共同で開催する予定のイェナ大学のフィーヴェク教授と打ち合わせを行い、タイトルを「ヘーゲルにおける自然と生命」と決定し、招待者の選定など準備を進めた。7月にはボーフム大学ヘーゲルアルヒーフおよびハイデルベルク大学にて資料収集を行い、ヘーゲルが当時参照していた自然科学書についての知見を得、二次文献を収集した。4月から7月の間に、オーストリアおよびドイツにて3つの国際会議での報告と一つの講演を行い、ヘーゲル論理学における自然の問題を中心に研究成果を発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の予定は、ビシャのテキストの検討、それを踏まえてのヘーゲル生命概念の捉え直しであったが、上記のように予定通り推移している。また、ドイツ出張によって文献の収集・検討を行うことが出来た。また、前半はヨーロッパに滞在することが出来たことから、国際会議で4度報告をする機会に恵まれるとともに、著名な研究者たちと有意義な意見交換を行うことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年2月に開催を予定している国際会議は、本プロジェクトの総括としての意味を持つと考えている。登壇予定の研究者たちとメールなどを通じて意見交換をしながら、この研究会議の準備を進める。そこではヘーゲルの有機体論における病と死の問題について報告する予定である。8月には中国・北京の清華大学で、10月にはドイツのイェナ大学で国際会議に参加し、研究報告を行う予定である。これらの報告の準備を進めながら、カンギレムとトンプソンの有機体・生命理解を援用することでヘーゲルの有機体論の規範的意義を明らかにするという本研究のまとめに取りかかる。
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Causes of Carryover |
当初2019年度に開催を予定していた国際会議が招待予定の研究者との日程調整により2020年度開催となったため。
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