2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00011
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
田中 伸司 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (50207099)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | プラトン / 『国家』 / 徳倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の中間年として、『パルメニデス』を主題とした国際プラトン学会(7月15-19日於パリ)に参加し、本研究の一つ目の課題「イデア論を徳倫理学に位置づける」に係る資料収集及び各国のプラトン研究者と意見交換を行った。 この知見をもとに、2019年度中部哲学会大会でのシンポジウム「集合知と哲学の未来」において提題を行い(「専門家のいない領域において哲学者は何をするのか?」静岡大学浜松キャンパス、2019年9月28日)、集合知的な意思決定に対して一見否定的に見えるプラトン哲学とりわけそのイデア論が、その実、民主政における熟慮形成を可能にすることを論じた。このシンポジウム及び討論において、イデア論を基礎とした知性主義的な徳倫理学の可能性が見えた。このシンポジウム提題はプラトンの哲学の意義を現代日本の対話実践において確認することをつうじて、本研究の二つ目の課題「倫理的エゴイズムを肯定する正義論」への批判への応答を用意する試みとなった。 さらに、第41回静岡哲学会において、『国家』の掉尾におかれている「エルのミュートス」について学会発表を行った(静岡コンベンションアーツセンター、2019年11月3日)。寓意的に解釈されてきたエルのミュートスを、可能なかぎりテクストどおりに読み解くことによってその哲学な意味を明らかにし、『国家』の円環的構成の意義を論じた。この研究成果は、2020年度に予定している『国家』中心巻の3つの比ゆの読解を介して、二つ目の課題の達成へとつながることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究に係る発表を2本行い、既に投稿も済ませている。シンポジウム提題は依頼によるものであり学会誌に掲載が決定しており、学会発表については現在査読中である。これらの研究成果が示すように、本研究は順調に進展しており、本研究後(2021年度)に予定している学術書(『プラトン『国家』に関する徳倫理学研究(仮)』)の刊行も視野へと入ってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な方針は変わらない。これまでの研究成果を元に、『国家』中心巻の分析へと進む予定である。『国家』第6-7巻で語られる3つの比ゆと第10巻のミーメーシス論で使用される視覚モデルを、魂と国制の制作論として読み直す。この分析を基礎として「時空の中に存在しない対象について私たちが何かを知るということはどのようにして可能なのか」というプラトニズム批判に回答する。この論証により、人間を知性と捉えることの意義を明らかにしたい。 なお、研究計画の変更や研究を遂行するうえで問題となる課題はいまのところない。
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