2020 Fiscal Year Annual Research Report
Virtue Ethics in Plato's Politeia
Project/Area Number |
18K00011
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
田中 伸司 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (50207099)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | プラトン / 『国家』 / 徳倫理学 / エルのミュートス / ポリテイア / 円環的構成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の最終年として、成果論文の発表と研究成果の点検を行った。 研究成果としては、①査読付論文「エルの物語はどのように「私たちを救う」(『国家』第10巻621C)のか」が静岡哲学会編『文化と哲学』37号(2020.6.20)に掲載された。本論文は、エルという人物の臨死体験を描いた「エルの物語」について、これが『国家』の掉尾におかれていることの意味を対話篇の円環的構成という観点から読み解き、そこにプラトンが『国家』という対話篇において構想した哲学的な意義を論じたものである。すなわち、「エルの物語」が対話篇の掉尾におかれている意味とは「プラトンはポリテイアという概念を、アテナイの現実のポリテイア(国制・市民のあり方)から解放し、いわば宇宙に息づくものとして語りなおす」ことにあったと言えるだろうと。この論文での考察をもとに、『国家』中心巻で展開される「善のイデア」を分析することへの視座を確保することが可能となった。②依頼論文「専門家のいない領域で哲学者は何をするのか?」を中部哲学会編『中部哲学会年報』に投稿し、審査が終了し、現在、初校の段階にある。本論文はシンポジウム「集合知と哲学の未来」(2019年度中部哲学会)での提題をもとに寄稿したものであるが、大衆の「知」に対して徹頭徹尾に否定的であったように見えるプラトン哲学とりわけそのイデア論こそが民主政における熟慮形成を可能にする議論であったことを論じている。本研究課題「プラトン『国家』における徳倫理学的研究」の一つの到達点が見えた成果となった。 他方で、コロナ禍による制約もあり、最終年度は積極的な成果発表が進展せず、『国家』中心巻の3つの比ゆの検討については、問答法という対話的ないわば熟慮形成においてイデア的な超越が可能となるという解を望見するに留まっている。
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