2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K00012
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
瀬口 昌久 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40262943)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ルクレティウス / エピクロス / 原子論 / 事物の本性について / 受容史 / アトミズム / ロマン主義 / ポッジョ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は写本の伝承史と近代語翻訳について調査を行った。現存する最も古く最も重要なルクレティウスの写本は、オブロンゴス(O写本)本とクアドラトゥス本と呼ばれる。ポッジョが1417年に発見したのは、O写本から作成された一〇世紀頃の写本である。イタリー写本はO写本の孫写本以降に当たるので、原典テクストを校訂する独立した価値をもたない。しかし、ルネサンスにおいて中世キリスト教の世界観の変容に大きな影響を与えたのは、ポッジョの写本であった。1473年にはイタリー本をもとにして、『事物の本性について』(DRNと略記)の初版本が印刷される。DRNの出版は、イタリアの人文主義者に大きなインパクトを与えた。DRNは、16世紀の初めにフィレンツェ教会会議によって学校での禁書とされたが、ローマ教会の禁書目録には一度も載せられることはなく、その出版はヨーロッパの各地で続いた。しかし、17世紀半ばになっても、マルケッティの手になるイタリア語翻訳は、出版されなかった。ルクレティウスの近代語訳の出版はフランスが早い。最初のフランス語訳は、バードとプチによって1514年に出版され、1563年にはドゥニ・ランバンによって、重要な校訂本が出版された。英国でのルクレティウスの翻訳はかなり遅い。最初の英訳の出版は1656年で、J・イーヴリンによるものだが、それは第一巻だけの翻訳にすぎなかった。ほぼ同じ時期にL・ハッチンソンによって全巻の英訳が初めて完成され、そのコピーが回覧されていたが、1996年になるまで出版されなかった。英国におけるルクレティウスの全巻の英訳は、1682年のT・クリーチによる。英国でのルクレティウスの翻訳の次の節目は、ロマン主義時代にとぶ。この時期に四つの新たな英訳が相次いだ。啓蒙運動の合理主義に反対するロマン主義が台頭した時代に、ルクレティウスは反ロマン主義者たちによって歓迎されたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の後期には、名古屋大学文学研究科において、西洋古典学研究の講義を担当して、「憂愁の宇宙論・詩の旅路:ルクレティウス『事物の本性について』の総合的研究」というテーマで15回の講義を行った。1417年の写本発見以前のDRNの伝承史、1417年のポッジョによる写本発見以降の出版と近代語翻訳の歴史について論じ、イタリア・ルネッサンスとルクレティウスの関係や、ヴィクトリア朝時代の文学の中のルクレティウス像の変遷についても詳しく検討することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
ルクレティウスの作品が、古代ローマ世界の文学に与えた影響を、ウェルギリウスやオィディウスなどに調査し、古代での高い評価が、キリスト教がローマ帝国の国教とされていく過程でどのように変化をしていったかを追跡する。オリゲネスらのギリシア教父から、テルトゥリアヌスやラクタンティウスなどのラテン教父の著作におけるルクレティウスへの批判とその論拠をたどる。6世紀から12世紀までに、ルクレティウスがどのように伝承され、評価されていたかを、イシドルス、ラバヌス、コンシェのギヨームなどの著作から読み解く。それに引き続き、ルネサンス以降、ブルーノとガッサンディ、モンテーニュに与えた思想的影響を取り上げる予定である。
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Causes of Carryover |
研究の進捗につれて、当初の計画して分野とは異なる図書の購入が必要になる可能性が大きくなったために、書籍の購入を手控えたため。
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