2019 Fiscal Year Research-status Report
Ethical Consideration on modification of nature. An approach from kantian viewpoint
Project/Area Number |
18K00018
|
Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
桐原 隆弘 下関市立大学, 経済学部, 教授 (70573450)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 人格 / 社会 / 人間性 / 自発性と強制 / 言語起源論 / 歴史法則 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. カントの人格・社会・人間性概念に関するドイツ語論文の公刊 市民社会論の文脈に即してカントの人格概念を再構成し、そのうえで日本の代表的な哲学者(和辻哲郎、廣松渉)におけるカントの人格・社会・人間性概念解釈の検討を行うことにより、「日独哲学対話」の呼び水とすることを目指した。その際、「人間性/人類」(Menschheit)概念がカントにおいては生物的特質としてはほとんど問われることがなく、もっぱら社会的・道徳的課題として理解されていることを確認した。カントにおいて「人間性」は、(それ自体としては種々の「強制」―「自己強制」含む―を同時に不可避とする)市民社会秩序および個人の自発的な義務遵守(能力発展/慈善行為)、さらには趣味判断に見られるような自然発生的共通認識を通じて、類として実現・完成されるべき課題であった。ユルゲン・ハーバーマスは、こうしたカントの歴史哲学構想を念頭に置きつつ「類倫理」構想を展開し、「自己存在可能性」が人類の生物学的に不変な(介入・変更し得ない)特質を基盤として初めて成り立つとした。これは生命倫理の文脈におけるカント的人間性概念の修正であると理解し得る。
2.ヘルダー言語起源論とカント歴史哲学に関する論文の執筆 先述論文でも触れたが、ヘルダーはカント歴史哲学における「人間性」理念について、「類としての人間を教育することなど不可能だ」とし、人間の個性(個人および民族)の存在意義を強調している。この点および、ヘルダーがカントの自然地理・天文学講義/著作の影響を受けて自身の歴史哲学構想を展開したことをふまえ、ヘルダーとカントとの長年にわたる論争に目を向ける論文を執筆した(公刊は2020年度)。ヘルダー言語起源論における歴史法則論が、形式・内容ともにカントの歴史哲学論文に暗黙裡に受け入れられていることを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文を2本執筆した(1本は2019年度公刊、1本は2020年度公刊予定)。 いずれも研究テーマの中核部分に関する論文である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は最終年度に当たる。そのため、当初の研究目的をふまえて引き続き論文執筆とこの間の研究成果の全体まとめを行う。 1.ヘルダーとカントの論争を詳細に追う カント地理学・天文学講義からヘルダー歴史哲学へ、ヘルダー歴史哲学へのカントの批評(同時に言語起源論の歴史法則論のカントにおける受容)、ヘルダーの反応(カント歴史哲学批判、カント批判哲学の「超批判」)、等を、原著および解釈史を踏まえ検討する。そのことを通じて、カントにおける「人間性」概念の自然的・社会的・道徳的特質を明らかにする。その際、分子生物学・進化論・脳神経倫理等における生命観の捉え直し作業と(次の「国家」論とも関連する)「生政治」(Biopolitik)の可能性への批判的視点を模索する。 2.フィヒテとカントの「国家」論を検討する 2019年度のドイツ語論文において、カントにおける「自由(自発性)と強制の弁証法」について論じた。カントのこの議論は、現下の新型コロナ危機に際して、国家による私権制約と生活保障相互の関連の公共哲学的根拠を検討するうえで重要な論点を含んでいる。国家が不可避的に含んでいる「強制」機構を、個人の自由および人権の実現手段と捉えるのがカントであり、したがって、自由と強制とは、自己強制、自然発生的社会秩序といった一定の緩衝材を伴うものの、原理的には互いに緊張関係に置かれていた。これに対し、フィヒテの場合、国家の側面と個人の側面とがより調和的に描かれていると見ることができる。それは単に彼のナショナリズムの傾向においてだけでなく、『閉鎖的商業国家』『ドイツ国民に告ぐ』等が示すように、道徳的社会秩序が国家において明白な強制なくして、教育によって成り立つとの確信にあらわれている。こうした点を念頭に、フィヒテとカントを比較考察してみたい。
|
Causes of Carryover |
2019年度においてはドイツ語論文は公刊したものの、年度途中ではやや研究に遅滞が生じ、年度末から2020年度初頭にかけて1本論文は執筆したが、2019年度内の公刊には間に合わなかった。また、2019年度において学会発表を行うことはできなかった(旅費の支出がなかった)。 2020年度においては、ヘルダーとカントの比較、フィヒテとカントの比較を、「人間性」(自然・社会・道徳)論、および「国家」論を軸に行い、これを現下の(新型コロナウイルス感染症問題を初めとする)国内外の社会変動の諸問題と関連付ける予定である。 学会出張等は困難であるが、おもに文献・資料購入に研究費を用いる予定である。
|
Research Products
(1 results)