2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00030
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
松本 大理 山形大学, 地域教育文化学部, 准教授 (20634231)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カント / 倫理学 / 観点 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「当事者の観点に基づいたカント倫理学の変換」を研究課題としている。倫理学史上、曖昧にされてきた「当事者」概念や「観点」概念を分析し、それらの整理を通してカント倫理学に新たな解釈を与えることを目指している。考察の手がかりとして参照する先行研究分野は、主に次の二つである。第一は、討議倫理学によるカント倫理学のコミュニケーション論的変換とそれをめぐる最近の論争である。第二は、現代英米圏で展開されている、カント倫理学に関する二人称的観点からの解釈と一人称的観点からの解釈の間の論争である。 2018年度中に英米圏における議論を一定程度整理したことから、2019年度はその知見をカント倫理学の解釈方法に適用することを試みた。まずはS. ダーウォルが行っているカント解釈に検討を加え、その妥当な部分と不明確な部分を分析した。ダーウォルは「二人称的観点」からの倫理学を構想することにより、カント倫理学に前提されている三人称的観点(または一人称的観点)を批判している。しかしその検討を通して明らかとなってきたことは、「人称性」の区別については十分に考察されているものの、「観点」そのものの分析については非常に弱いということであった。またカント自身には「二つの観点」という有名な区別が存在するが、これについてのダーウォルの考察も非常に限られている。ダーウォルの考察を継承するにせよ、批判するにせよ、カントの「二つの観点」の再吟味が必要であることがわかってきた。この点について、専門学会(日本カント協会)において一般研究発表し、また応募論文の投稿を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
S. ダーウォルのカント批判を検討することにより、いくつかの問題が明らかとなってきている。ダーウォルの議論を手引きとする際には、人称性の区別だけではなく、「観点」そのものの分析を十分に果たす必要がある。この点については、カント自身の用語を分類・整理することで一定の知見を得られることがわかってきた。カントにおいて「Standpunkt」という用語は、主として行為者が行為する際の観点という意味で用いられている。これに対して、理論的観点や実践的観点、あるいは理性の理論的使用や実践的使用について語られる場合は、「Absicht」や「Ruecksicht」など、複数の別の用語が用いられている。これらの違いが明確になってきたことで、個々の理性的存在者が持つ観点と、理性一般が持つ観点の違いも把握しやすくなってきた。個々の理性的存在者の観点からカント倫理学を解釈する方法が、徐々に整理されてきたと言える。 またダーウォルはカントの「尊敬」概念についても考察しているが、この議論も本研究にとって有意義な役割を果たすことが見えてきた。ダーウォルにとっては、「尊敬」概念は、二人称的な観点に立つことを示す重要な概念であるが、他方でカントにおいても、一人称的な自律的意志の観点に立つことを表現する重要な概念である。しかしダーウォルにおいては、尊敬の対象は二人称的他者であるが、カントにおいては、まずは道徳法則であり、両者は同じ概念を重視しながらも異なる意義を取り出している。この違いをさらに吟味することで、人称性の区別とは異なる側面から、それぞれの議論を整理し得ると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
ダーウォルやコースガードの人称性をめぐる議論について一定程度の検討を終えたことから、2020年度は討議倫理学における類似した議論の検討も行う。 また「尊敬」概念についての分析は、「個々の当事者」と「観点」の両要素に深くかかわるため、詳しく検討する予定である。この概念は『人倫の形而上学の基礎づけ』や『実践理性批判』において明示されているが、これに対して『人倫の形而上学』の「徳論」においては、やや異なる側面からの特徴づけが豊富になされている。すなわち、道徳法則に対する尊敬だけではなく、個々の人格に対する尊敬という側面からの議論が展開されている。2020年度中に、このテキストからの尊敬概念の読解を進めることで、本研究の内容を補強する。
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