2018 Fiscal Year Research-status Report
Inclusive Philosophy: A Theory and Practice created through Collaboration with Designers
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18K00033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
梶谷 真司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50365920)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | デザイン / Inclusion / 包摂と排除 / 共創 / 哲学対話 / コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
理論的な面では、Inclusive DesignやUniversal Designに関する研究を進めた。とりわけあらゆるものをデザインの観点からとらえ直し、そこにどのような排除が潜んでいるか、その原理を考察した。業績としては、8月にゲッティンゲン大学でThe Ethos and Nomos of Inclusionをテーマに講義を行い、3月には台湾の国立交通大学で、Design as Theory and Practice for Social Inclusionと題して講演を行った。 実践的な面では、5つの哲学対話についての講習、5つの〈哲学×デザイン〉プロジェクトのワークショップを行った―― ①「働く人の哲学対話だぁ!」では、社会人を対象に日常の問いから哲学対話を行った。②「ルワンダへの恋、ルワンダからの問い」では、ルワンダ在住の加藤雅子氏を迎え、現地の生活の中で抱いた問いから自分たちを見つめ直すワークショップを行った。③「音楽と想起のコミュニティ」では、ミュージシャンのアサダワタル氏を迎え、音楽によって喚起される記憶を通して人々を結び付ける彼の活動を紹介していただき、会場でも懐メロを使ったワークショップを行った。④「『ぐるぐる回る光の中で』~映画をめぐる試行錯誤×対話ワークショップ」では、映画監督の中里龍造氏を迎え、彼が独特の手法を使って制作している映画を上映し、そのテーマをめぐって哲学対話を行った。⑤「「木」を書く~字を書くことから見えてくる“わたし”」では、書家の華雪氏の一字書のワークショップにおいて、書を通して参加者が一体となってそれぞれが自らに向き合うという体験をした。 哲学教育との関連では、都立高校で探求学習のための教員研修や授業運営のサポートを行った。また、宮崎の高千穂高校では、世界農業遺産を地域おこしに生かすために、哲学対話と文章の書き方の講習を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論面では、デザインに関する文献を集め、読み込むことで排除の構造およびその発生、その対処の方法について原理的な理解を得ることができた。とりわけデザインの理論では、より実践的な意味でのヒントを多く得ることができた。 実践面でも、様々な現場――外国、音楽、映画、教育、芸術など――の人たちとコラボレーションすることで、排除と包摂が具体的にどのような形をとりうるのか、そのデザイン上の工夫や原理を実感と共に理解することができ、自分でも様々な形で試す機会に恵まれた。 文部科学省により探求学習が導入される時期に重なったことが幸いし、教育の現場で排除の仕組みを実地に見て、その改善を試みるのに現場の教員たちと生産的に協働できた。とくに都立高校では、文科省の方針がもつ教育観や学校という制度が持つ排他性など、様々な問題点が浮かび上がり、またその中で「探求」をどのように実現するか、そのデザインについて多くの示唆が得られた。 どの点に関しても、その方面の協力者――水内智英、鞍田崇、社団法人子どもの成長と環境を考える会、NPO法人グローカルアカデミー、総合地球環境学研究所など――と緊密な連携が取れたことで、これだけの成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
理論面では、Inclusive DesignやUniversal Designの理論を学ぶことにより得たものは多かったが、他方で哲学的な掘り下げ、とくに「対話的なもの」の本質を追求するのは、デザインの理論だけでは十分にはできそうにないことも明らかになってきた。それを考えるためには、身体論、空間論、言語論等の側面から哲学的な考察を深めていかなければならない。 実践面では、さらにいろいろなデザイン関係の人たちと共同していく。教育との関連では、本年度から探求学習が本格化することもあり、学校とのより緊密な連携が可能になる。そこから授業のデザインとして、よりインクルーシブな場の創出のために体制が整うと思われる。社団法人子どもの成長と環境を考える会と協働し、さらに具体的な形にできるよう活動を広げていく。 5年前から関わってきた宮崎県の五ヶ瀬中等教育学校のスーパーグローバルハイスクールが終了し、哲学対話が学校教育にも高校生の寮生活にも、地域との交流にも根づいて文化のようになってきており、そうした成果の上に本研究を接続できるのも、大変なメリットであった。そして今年度からは、グローカル型のプログラムに採択され、高千穂高校とも協働して地域再生に取り組むことになった。今後はNPO法人グローカルアカデミーの協力を得て、より広い範囲で地域おこしと教育の変革のためのデザインに関われることになった。 地域おこしについては、その他にも、総合地球環境学研究所で以前プロジェクトを持っていた時に関わっていた滋賀県の朽木での活動がその後さらに進展しており、あらためて現地のメンバーと連携できそうであり、この方面でもコミュニティのデザインという観点から研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる理由は、共同研究(講演やワークショップ等)のために招聘する人数が当初予定していたよりも少なく、また遠方からの人がいなかったためである。今年度は、遠方からも招聘予定であり、またこちらから出張するさいに同行するアシスタントの数も増える予定である。
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