2019 Fiscal Year Research-status Report
Inclusive Philosophy: A Theory and Practice created through Collaboration with Designers
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18K00033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
梶谷 真司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50365920)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | デザイン / 哲学対話 / インクルージョン / 共創 / 地域創生 / コミュニティ / 障害 / 知識論 |
Outline of Annual Research Achievements |
理論的な面では、世界や物のあり方をデザインの一種と捉え、さらにそれを知識論・認識論と結びつけ、「知る」「理解する」「考える」といったこととの関連を考察した。ここで「世界や物に宿る知識」という視点を得られたのは大きな収穫だった。またそこから今和次郎の考現学や柳田國男の民俗学の知見を捉え直せたのも有意義であった。 実践的な面では、16の哲学対話に関する講演・ワークショップ、7つの〈哲学×デザイン〉プロジェクトのワークショップを行った。講演やワークショップについて特筆すべきは、①豊橋の穂の国とよはし芸術劇場 PLATと京都のロームシアター京都、②宮崎県五ヶ瀬町で行われた総務省「関係人口創出・拡大事業」哲学対話セミナーと、世界農業遺産・ユネスコエコパーク中学生サミット、町田市の生涯学習センター交流会、③りそなアジア・オセアニア財団主催の環境シンポジウムと、国連大学で開催されたSDGs企業戦略フォーラムで行ったワークショップや講演である。これにより演劇という芸術活動、地方創生や町づくり、企業のSGDs関連事業といった多様な分野で、しかも個別の組織や団体のみならず、自治体や行政機関、産業界でも、哲学対話の意義が認知されるようになった。 〈哲学×デザイン〉プロジェクトのうち特に強調したいのは、①山田小百合氏を招いた「「ために」から「ともに」へ」、②松田崇弥氏と菊永ふみ氏とコラボした「全人類が可能なコミュニケーションとは?」、③稲原美苗氏の科研と共催で伊是名夏子氏とを招いた「障壁のある人生をどのように生きるのか」である。ここでは障害をもった人たちとともにインクルーシヴな場を作るさいの対話の意義について、参加者と共に考えることができた。 最後に、哲学教育との関連では、引き続き都立高校での教員研修や授業運営のサポート、宮崎の五ヶ瀬中等教育学校や高千穂高校で哲学対話と文章の書き方の講習を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論面では、「世界と物に宿る知識」という着想を得ることで、知識論とデザイン論を結びつけるうえで非常に大きな進展を見た。またそこから今和次郎の考現学や柳田國男の民俗学の方法や資料を新たな視点から読み解くことができるようになってきた。 実践面でも、昨年度以上に様々な分野の人たち――新聞記者、インクルーシヴ・デザインの専門家、障害をビジネスに結びつける起業家、音楽家、地域起こしの団体、婚活アドバイザー、様々なハンディのある当事者――とコラボレーションすることで、排除と包摂のあり方をより広いコンテクストの中で考えられるようになった。 [概要]でも書いたが、哲学対話の活動が行政や自治体でも注目されるようになった。また2019年5月13日~5月17日に日経新聞の紙面とWeb上に発表された「キセキの高校」という記事で、2016年から都立高校で続けてきた哲学対話の研修が紹介された。それが各所で大きな反響を呼び、企業や教育機関から強い関心を寄せられ、NHKの「視点・論点」でも哲学対話について話す機会に恵まれた。こうしたことにより哲学対話の意義が広く認められ、「共創」を軸として様々な人たちとの協働の可能性が大きく広がった。私自身が関わったことではないが、NHKのETV特集「7人の小さき探求者たち」でも哲学対話(子供のための哲学)が取り上げられたのも、そうした世の中の関心の現われと見られる。 高校での探求学習の導入との関連で言えば、昨年度より現場の教員が、抽象的な理念のみならず、それを具体的に落とし込むだけの経験と知見が養われ、定着に向けてより具体的で実効性のある取り組みが可能になってきている。 どの点に関しても、様々な人や組織とコラボレーションできたおかげで、予想をはるかに上回る成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
理論面では、「世界と物に宿る知識」という観点からの知識論の構築が更なる課題であるが、そこにおいてあらゆるものをデザインとして捉える視点が極めて有効であろうと考えている。また、2019年5月のTURNミーティング、8月のTURNフェス、および自分が主催した〈哲学×デザイン〉プロジェクトの活動を通して、「境界をいかにして越えるか」ということが、たんに実践のレベルだけではなく、理論的にも深めなければならない問題として浮かび上がってきた。 今後は、この面を理論と実践の両方で掘り下げていく。 現在コロナウィルスの影響で、ワークショップやセミナーが物理的に空間を共有する形では開催ができなくなっているが、オンラインというのは、一方で私たちを物理的に隔てながらも、他方でまさに様々な「境界を越える」ものであるとも言える。このままの状態が続いても、私としてはむしろこの機会を最大限に生かし、インターネットやヴァーチャル空間におけるインクルージョンに取り組んでいく。もちろんコロナ危機が去って、実際にリアルな場で活動できるようになったら、教育、芸術、コミュニティ作り等、様々な分野の人と協働しつつ、上記のテーマについての研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる理由は、海外への出張を予定していたのが実現できなかったのと、また遠方から招聘者が少なかったためである。今年度は、遠方からも招聘予定であり、またこちらから出張するさいに同行するアシスタントの数も増える予定である。
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