2020 Fiscal Year Research-status Report
Inclusive Philosophy: A Theory and Practice created through Collaboration with Designers
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18K00033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
梶谷 真司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50365920)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | デザイン / 哲学対話 / インクルージョン / 共創 / 地域創生 / 共同体論 / 知識論 / ビジネス |
Outline of Annual Research Achievements |
理論的な面では、昨年から世界や物のあり方をデザインの一種と捉え、さらにそれを知識論・認識論と結びつけて考察してきた。そこで知識を世界や物に非言語的に包含されるものとして捉えると同時に、主体との関連でより多元的に分析した。そうすることにより、どのような人たちが協働することによってどのような知識が生まれ、活用されるかを考える枠組みを得ることができた。 また実存思想協会の年次大会では、哲学対話におけるインクルージョンを他者論や共同体論の観点から考察し、それが従来の哲学理論では十分に論じられてこなかった側面を持つことを示した。 さらにコロナウィルスの影響で対面のイベントはできなかったが、オンラインでむしろ新たな可能性を開くことができた。とりわけ哲学対話に関しては、オンラインのほうが場をインクルーシブにする面があることが分かった。 実践的な面では、25の哲学対話に関する講演・ワークショップ、9つの主催イベントを行なった。講演やワークショップについて特筆すべきは、①対話のファシリテーション講座の依頼を受けて開催したところ、多くの希望者が来て、その人たちが自発的にみずから哲学対話の場を作っていったことである。オンラインによってイベントの開催も参加も敷居が下がったことで、この間に哲学対話はオンラインで爆発的に増えたと考えられる。②宮崎県新富町のこゆ地域教育研究所の主催で行われたWell being × 哲学対話「性教育」は、人生において大切だが学校教育で教わらないことを学ぶ場を地域おこしとして作るという稀有な試みであり、それは教育と地域おこしと哲学対話のきわめてユニークな組み合わせである。③〈哲学×デザイン〉プロジェクトでは、ビジネス、子育て、プロデュース、セックス、恋愛・結婚といったテーマで、様々な分野の人たちとコラボレーションをして、共創哲学の可能性をさらに広げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論面では、知識をそれが存在する場所と、それをもつ主体との関連でより多元的に分析することで、多様なもののインクルージョンの可能性について、より深い考察をすることができた。また哲学対話の場をコミュニティの一種として捉えることで、従来とは異なる共同体論を構築することができた。すなわち、通常の類似性や共通点を土台とするコミュニティではなく、異質性や相違点を土台とするコミュニティの可能性が哲学対話によって可能になることを示せた。さらに哲学対話は、たんに共同性だけではなく、単独性も同時に成立させること、言い換えれば。、共にいることで一人になりうる場であることを示すことができた。このように哲学対話は、たんに話し合いの場ではなく、理論的にも従来の哲学に新たな貢献をすることができる。 実践面では、オンラインによって哲学対話を行う人が劇的に増えたことは、コロナウィルスの影響によって得られた意外な成果であった。そのために私自身もファシリテーションの講習をしたり、自分でも対話イベントを開催したり、一般の人が自分で哲学カフェを運営するプラットフォームを作ったりした。それにより、多くの人が自分たちのテーマで対話を行い、その場に応じて柔軟にアレンジをしていく様を私自身が見る機会を得た。 自分が主催するイベントも、すべてオンラインで行ったが、オンラインだからこそ可能なインクルージョンの形を様々に試みた。とりわけ地理的な制約を受けないため、国内外を問わず色々なところから参加できるようになった。またパソコンの画面によって隔てられていること、カメラやマイクをオフにできることで、通常であれば外出が難しい人も参加できた。こうしたオンラインによってもたらされた状況が参加者の多様性を著しく広げた。また〈哲学×デザイン〉プロジェクトでは、さらにいろいろな人とコラボレーションすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は本来最終年度であったが、コロナウィルスの影響で予定していた活動ができないか、すべてがオンラインになったため、予算がかなり余った。そこで1年延期させていただくことになり、結果的には今年達成した理論と実践両方の成果をさらに発展させることができると考えている。 理論面では、知識論との関連、コミュニティ論としての考察をより深める。またオンラインでのつながりがインクルージョンとどのように関わるのか、その利点と欠点の両方を明らかにするために、さらにさまざまなイベントを試みたい。また昨年度は、当初予定していたTURNフェスが開催できず、研究会での議論を積み重ねてきたが、今年は8月に開催できれば、研究会で一緒だった様々な分野の人たちと共同展示を企画している。そこでは「感覚の境界をいかにして越えるか」をテーマに障害者と健常者が新たにインクルージョンできる場を作る実験を行う。 今年もコロナの影響でどうなるかは分からないが、できれば本来予定していた海外でのワークショップに参加したいが、もしそれが叶わなかったら、せめて国内のワークショップに参加したい。またそれが叶わなくても、何らかの仕方で(オンラインであっても)多様な人たちと協働することで、新たな共創の場を作る実践とその理論化に努めたい。とりわけ〈哲学×デザイン〉プロジェクトについては、この科研のプロジェクト以前からコラボレーションしてきた人たちも含めて、成果をまとめたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる理由は、コロナウィルスの影響で海外への出張を予定していたのが実現できなかったのと、またシンポジウムや講演会の登壇者に対して支出したのが謝金のみで旅費がまったく発生しなかったためである。今年はできれば、海外か国内のワークショップに参加して、新しい手法を学び、この分野で共同できる人とのつながりを広げたい。とはいえ、もし今年度も昨年度同様、コロナウィルスにより移動が難しければ、オンラインイベントをより多く開催するとともに、成果をまとめるほうに重点的に予算を充てる予定である。そのために必要であれば、その作業のための手伝いに対して人件費をとる。
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