2019 Fiscal Year Research-status Report
The Formation and Collapse of the Naturalistic Basic Logic of the Early Modern Western Theory of Ideas
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18K00039
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
冨田 恭彦 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (30155569)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 観念説 / 観念 / 自然主義 / メタ自然学 / デカルト / ロック / カント / フッサール |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ジョン・ロックの『人間知性論』に見られる観念説(theory of ideas)がどのような意味において自然主義的であったか、すなわち、それがどのような意味において、科学的思考に依拠しながら科学についてメタ自然学的視点から論じるものであったかを、明らかにするよう努めた。 認識論的第一哲学(形而上学)が科学を基礎づけるという観点を強力に示したデカルトやカントやフッサールらの影響下に、久しく自然主義的認識論は否定的に見られ、また、物そのもの・観念・心という三項関係的枠組みを持つ当初の観念説は科学の仮説的思考の結果であったにもかかわらず、仮説の論理への理解が次第に遠のき哲学と科学が乖離するに及んで、当の観念説の枠組みそのものが、物そのものへのアクセスを不可能にすると誤解されてきた。 こうした誤解を解くべく、研究者自身がこれまで遂行してきたさまざまな試みに加えて、今年度は再度ロックの観念説がどのような仕方で仮説的思考を自覚的に踏まえた営みであったか、そして、なぜそれが単なる循環ではないのかを考察した。 この考察には、ロック的な自然主義的観念説に歪んだ理解を与える機縁となった、デカルトとカントの認識論的見解をどう読み直すかが鍵となる。この件についても、すでに別途詳細に示したことのあるデカルトとカントの観念説・表象説の「隠れ自然主義」的論理構造の解明をさらに進め、彼らの認識論的見解がどのような仕方で彼らが支持した自然科学的思考に依拠していたかを再度検討した。 以上の研究成果の一部は、冨田恭彦『バークリの『原理』を読む──「物質否定論」の論理と批判』(勁草書房、2019年)および冨田恭彦『詩としての哲学──ニーチェ・ハイデッガー・ローティ』(講談社、2020年)においてこれを公にし、その成果をさらに海外で発表すべく、現在その準備を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
西洋近代観念説がどのような推移をたどったかについては、その基本論理はもとより、それがどのように変質して行ったかを、その本質部分に焦点を合わせて、しっかりと捉えることが肝要である。 本年度の研究においては、ロックの観念説の自然主義的性格を押さえるという本来の課題と並行して、その考察のための地平の一つの重要な構成要素をなす、19世紀以降の動向についても考察を進めた。とりわけ、ニーチェとハイデッガーがその推移にどのように関わっているかについて、本年度中に、かなり立ち入って検討することができた。その成果は、上記の『詩としての哲学』第1部が示すとおりである。 こうした点から、「当初の計画以上に進展している」と評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
【令和2年度】 バークリの「観念論」(物質否定論)の見直しを行う。バークリは、ロック的な自然主義的観念説の「物そのもの」、「観念」、「心」からなる三項関係的枠組みの中から、「物そのもの」は知られないとしてそれを消去する。このバークリの『原理』等に見られる観念論の論理が、どのようにしてデカルトやロックの原型的観念説の論理を歪めて成立するかを、バークリの後期の思想をも射程に入れながら再検討する。 【令和3年度】デカルトからバークリに至る一連の動きを承けて、ヒュームがどのような仕方で原型的観念論を崩壊させていったかを、彼の「心像論」と「懐疑論」とを念頭に置きつつ、考察する。この考察によって、原型的観念説がもともと持っていた新科学との結びつきをヒュームがどのように希薄化していったかが、明らかになるはずである。 【令和4年度】 本研究において、最も重要な課題となるのは、カントの超越論的観念論の論理をどう見るかである。この件については、特に、カントが若い頃から関わっていた自然科学の研究が、どのような仕方で、科学の基礎学たるべき形而上学を準備するための『純粋理性批判』の議論に入り込んでいるかを考察する。心像論者ではないカントが心像論者であるヒュームの言説からショックを受けて「独断のまどろみ」から目覚めたというカントの説明は、現代の研究水準からすれば実に奇妙な説明に見える。また、彼は、経験は必然性を教えないとして、われわれの基本的な考え方をある仕方でもともとわれわれの知的機能の中に組み込まれているとしながら、その組み込まれ方を説明するのに「胚芽」や「素質」といった当時の発生学の用語を用いている。こうしたカントの議論の再検討によって、われわれはデカルトからカントに至る西洋近代観念説の基本論理の変容の実際を、具体的に確認することになるであろう。
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Causes of Carryover |
膨大な研究成果を海外で順次公にするための費用(ネイティヴチェック料等)につき、英語版の準備の進捗状況との関係で、予算の一部を次年度に使用することにしたことによる。 そのため、「次年度使用額」として残した金額については、成果を海外で公にするための準備が整ってきたことから、翌年度分として請求した助成金と合わせて、順次執行する予定である。
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Research Products
(2 results)