2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K00044
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
中村 隆文 神奈川大学, 国際日本学部, 教授 (40466727)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スコットランド啓蒙思想 / ヒューム / スミス / ハチソン / 感覚・感情主義 / 共感 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はコロナ禍のために主要学会の年度大会が中止もしくは延期になったものもあった。本研究のために参加予定であったHume Societyは休会となり、報告予定であった日本法哲学会のワークショップも延期となった。 そのため、2020年度は翌年の学会報告および論文作成の準備期間として、各種資料の分析を集中的に行った。具体的には、本研究におけるヒューム思想と共感理論との関連から、スコットランド啓蒙思想の祖ともいえるフランシス・ハチソンの哲学とスコットランドのカルヴァン主義の調査を行った。 本年度の研究は、哲学思想としてのスコットランド啓蒙思想と、宗教思想としてのカルヴァン派長老主義の二方向からすすめ、それがイングランド的な自然法論や功利主義といった合理主義とどのように異なり、その結果、スコットランド啓蒙思想の特徴的な点を浮き彫りにすることにあった。ポイントとしては、カルヴァン主義の特徴はsense of deity (神性の覚知)であり、それは従来の合理主義や理神論とは異なり、神の被造物としての人間本性の感覚・感情の部分をも重要なものとして解明しようとする、という点である。たとえば、道徳に対する美を感じとる感覚を自然本性の一部とみなすもので、これはハチスンのモラルセンスやリードのコモンセンスだけでなく、ヒュームの情動理論やアダム・スミスの道徳感情論にもみられる特徴である。 こうしたスコットランド啓蒙思想の感覚論・感情論が、現代の社会哲学ではあまり着目されていないが、昨今の共感論の高まりを鑑みるに、十分に注目に値するものと考えられるので、こうしたスコットランド啓蒙思想の感覚主義・感情主義が法制度や政治制度にどのように組み込めるかを検証しつつ、次年度(2021年度)の学会報告や論文執筆の準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況は計画よりやや遅れているが、その大きな理由はやはりコロナ禍による学会大会の中止や延期があげられる。 2020年7月にコロンビアで開催予定であった国際ヒューム学会(International Hume Conference)が中止となり、海外のヒューム研究・スコットランド啓蒙思想研究の最先端の知見に触れることができなかったことは本研究の進展を遅らせるに十分なものであったように思われる。 また、報告予定であった日本法哲学ワークショップ「感情と法」は2021年度に延期となり、それゆえ、2020年度に報告し、それをまとめたものを投稿したり書籍化するという試みも延期せざるをえなくなった。 また、2020年度の前期には所属機関の事務もストップするなどして、書籍購入などの事務手続きに支障をきたし、ドミノ倒しのようにその後の研究にも支障が生じた。本務校の講義形態の変更などから、オンデマンド式に講義を変更するさいに増えた業務が足かせとなり、本研究に従事できる時間が少なくなったことも、研究の遅延理由として挙げることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
目下、フランシス・ハチソンの一次文献と二次文献を収集・分析し、その中身を、本研究課題のコアとなるデイヴィッド・ヒュームおよびアダム・スミスの思想と比較しながら、スコットランド啓蒙思想の全体像を描き出すという作業を行っている。これによって、スコットランド啓蒙思想というものが、「イギリス思想」の枠で一般的に考えられているものよりもはるかに深い哲学的意義をもったもので、現在の政治制度・法制度にまで影響を与えていることが明らかになると思われる。 2021年度の学会参加は情勢次第であるが、可能であれば国際ヒューム学会、日本法哲学会で報告をして、日本イギリス哲学会などに参加しながら、その知見を論文もしくは書籍として刊行したいと考えている。 英語論文については、現在執筆中であり秋頃に完成を予定している。その後、ネイティヴチェックを依頼して、海外雑誌に投稿してゆくつもりである。
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Causes of Carryover |
参加予定であった国際ヒューム学会や日本法哲学会が中止や延期(一部Zoom開催)となったことで、使用予定の旅費が未使用となったが、2021年度には開催されるので次年度に使用を予定している。
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Research Products
(1 results)