2021 Fiscal Year Research-status Report
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18K00044
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
中村 隆文 神奈川大学, 国際日本学部, 教授 (40466727)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スコットランド啓蒙思想 / ヒューム / 共感 / リベラリズム / 民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまで取集した資料を読み解き、論文公表の前段階として、学会報告を行った。具体的には、スコットランド啓蒙思想の基礎部分である感覚主義(sentimentalism)の先駆者であるフランシス・ハチスンの『美と徳の観念の起源』や『道徳哲学序説』の解読、および、それに関する二次文献を精査しつつ、ハチスンの思想におけるキー概念である「仁愛」「モラルセンス」というものが、スコットランド啓蒙思想の発展プロセスにおいてどのように変化していったのかを、哲学面・宗教面・法学面において研究した。 その意義は大きく二つあり、(1)スコットランド啓蒙思想の根幹であるハチスン哲学が導入した概念・理念の思想史的変遷をたどることで、これまで曖昧で漠然であった「スコットランド啓蒙」の全体像の解析度が高まり、その時代ごとの社会的意義が明示化されること、そして、(2)ハチスンに代表される前期スコットランド啓蒙と、ヒュームやスミスに代表される後期スコットランド啓蒙との対比が可能となること、である。 本研究はとりわけ、感覚主義・感情主義であるスコットランド啓蒙思想における「共感」の意義をさぐるものである。共感概念自体はハチスンではなくヒュームやスミス以降に活発となったテーマではあるものの、その前提には、一見すると形而上学的なハチスンのモラルセンスをいかに社会化しうるか、といった、近代民主主義社会におけるコンセンサスを模索するリベラリズム的発想がそこにはあったわけで、これを示すことで、民主主義やリベラリズムとしての象徴たるイングランドだけでなく、スコットランドにもそうした思想的ルーツが存在し、そこから、従来のイングランド中心的な「イギリス史」とは別のパースペクティヴが提示されることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍で、当初は資料収集がなかなか進まず、また、学会イベントも延期されていたが、2021年度になり、次第に従来の作業や学会参加が可能となったため、それまでの遅れを大きく取り戻すことに成功した。予定通り、国内での学会報告も完了したことなどを踏まえると、おおむね順調な進捗状況といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は国際学会(ヒューム研究学会など)に参加し、先進的な国際研究に触れながらそれを取り入れた研究成果のまとめにはいる。日本語および英語で論文を執筆し、関連する学会へ投稿し、掲載されるようにしたい。英語論文についてはプルーフリーディングが必要なため、少なくとも2022年度の秋くらいまでには原稿執筆を完了していなければならないので、国際学会への参加と並行しながらそれを進めてゆく必要がある。 また、本研究は哲学分野でありながら、思想史的な要素も多分に含んでいるため、歴史学や思想史研究とも関連させつつ、より包括的な形での研究遂行を計画するものである。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、所属する日本の学会および国際学会が対面で行われることになっており、そのための旅費を予算計上していたが、オンラインになったものや延期したものがほとんどであり、そのため、予算計上した旅費を使用することがなかった。 しかし、2022年度は対面で開催されることが決まったものもあり、とりわけ国際ヒューム学会はチェコのプラハで開催されるため、その分の旅費を2021年度から2022年度にまわした結果、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(2 results)