2018 Fiscal Year Research-status Report
Health care rationing and discrimination
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18K00046
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
有馬 斉 横浜市立大学, 国際総合科学部(八景キャンパス), 准教授 (50516888)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 終末期医療 / 安楽死 / 尊厳死 / 医療利用の年齢制限 / 差別 / 機能障害 / QOL |
Outline of Annual Research Achievements |
2月に単著(『死ぬ権利はあるか:安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』、春風社、2019年)を出版した。とくに第三章では、本研究課題の中心的な問題である、高額延命医療の利用の年齢制限の是非の問題を扱った。例えば70才や75才といった年齢を基準に、それより高齢の患者には延命に必要でも一部の高額医療の利用を許容しないとする政策の是非を論じた。一方では、こうした政策は、高齢者差別であると非難されることが多い。しかし、他方、差別には当たらないとする擁護論もある。本書では、とくにノーマン・ダニエルズによる擁護論に注目し、検討を加えた。ダニエルズの論において、特定の社会状況(世代間の人口の増減や経済環境の変化が無視できるほど小さい)や、望ましい人生観が前提されていることを指摘するとともに、こうした前提が、現実の日本の社会状況や、他のありうる人生観の可能性と突き合わせ・比較をした際に、必ずしも妥当とは見なせないことを明らかにして述べた。 また、第一章では、病人の生命維持医療の差し控えの是非に関する判断のレベルとして、臨床レベルにおける判断と、政策レベルにおける判断の二者があること、またこれらが互いにどのように関係しているかの点について確認、検討を行った。 また、日本医学哲学倫理学会の公開講座で、「機能障害者の生活満足度調査の結果から分かること」と題し、研究発表を行った。まひ、視覚・聴覚障害、透析を必要とする慢性腎疾患、ダウン症などの機能障害を持つ人々のQOLに関する調査結果の意義について検討した。 この他、自殺幇助の是非に関する過去の論文(「自殺幇助は人格の尊厳への冒涜か」、『倫理学年報』、2015年、日本倫理学会の学会賞を受賞)を英語に訳した。日本倫理学会の欧文誌に掲載の予定である。また日本末梢神経学会誌『Peripheral Nerve』のため研究倫理に関する論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまで終末期医療の倫理に関するこれまでの研究の成果をまとめるかたちで単著(『死ぬ権利はあるか:安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』、春風社、2019年)を出版することができた。また、学会の総会と公開講座で教育講演、研究発表を行った。加えて、論文を2本まとめ、いずれも次年度に学会誌に掲載される予定である。そこで、研究は概ね順調に進展しているといってよいように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は、高額医療利用の年齢制限等の分配理論に関し、ダニエルズの議論以外の議論についても、整理する。順次、批判的な検討を加えていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度の書籍等の購入に充てる計画である。
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