2020 Fiscal Year Research-status Report
古代ギリシア医学における病の位相:女性の身体の発見と医術の観点から
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18K00047
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
木原 志乃 國學院大學, 文学部, 教授 (10407166)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 西洋古代哲学 / 西洋古代医学史 / 安楽死 / 脳死 / ヒッポクラテス |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、古代医学思想について、二つの観点から考察した。(1)東北哲学会誌に掲載した論文(「古代ギリシア哲学・医学思想における安楽死と脳死──魂と「よき死」の決定について」)では、近年の安楽死事件や臓器移植の現状を踏まえつつ、西洋古代医学へ溯原してその問題を検討した。一般に古代ギリシアの医学史においては生命が尊重され安楽死が禁止されてきたという見解がこれまでにも想定されてきたが、果たして実際にテキストにはいかに語られているのか、そして脳死と魂の死はいかに関係づけられていたのか、等々を明らかにすることが目指された。 まず「安楽死」概念のもとにあるギリシア語での「よき死」の理解を、とりわけストア派の哲学およびヒッポクラテス医学の文脈から明らかにした。次に、ヒッポクラテスの『誓い』で語られる文脈をいかに読むべきかの問題を考察し、そこにおける安楽死禁止というこれまでの読解について再考した。さらに、脳死に重きを置く現代の死の判定基準と照らして、古代ギリシアの哲学者たちの死の判定基準を考察した。魂と身体および臓器との関わり、そして魂と死についてのギリシア哲学の議論のうち、とりわけ「死をめぐる自己決定」と「死を判定する根拠」とをテーマとして、古代以来の哲学者たちの主たる見解を確認することに努めた。 また、(2)では、古代ギリシアにおける「疫病」の歴史について取り上げ、『國學院雑誌』のコラムに原稿を掲載した。アテナイの疫病流行をめぐるトゥキュディデスの歴史書およびホメロスやギリシア悲劇等の文学作品に見られる記述は、ヒッポクラテス文書の『エピデミアイ(流行病)』に記録された病の語りとは異なっている。この病の語りの比較研究を通じて、古代の疫病や感染症の歴史を扱う次年度以降の研究の端緒とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究は、古代医学思想に関する幅広いテキストを扱い、脳死や安楽死を中心に生命倫理関連の近年の研究動向と古代思想との接合点を踏まえながら考察を進めた。この点では研究は進捗したと言えるが、古代ギリシアにおける女性研究に関連して令和2年度に予定していた学会開催が次年度に延期となり、文献渉猟等の目的で予定していた渡英も感染状況を考慮すると断念せざるを得なかった。さらに発注していた洋書の入荷も大幅に遅れたため、研究の計画を延長して再調整する必要があった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究成果を踏まえ、今後はギリシア医学思想の女性の理解に関してさらなる幅広い観点から考察を深め、多角的に医学史研究を進める予定である。 古代オリンピック関連の資料を精査し、医学史的観点からの理想の身体理解について考察を深め、とりわけ競技祭への女性の関与に関しても明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
本研究で予定されていた遠方での調査研究を行うのが困難な状況が続き、当初の計画を変更するタイミングも年度末までずれ込んだ。海外発注していた図書の到着も遅れ、次年度以降に会計処理が持ち越しとなった。
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Research Products
(2 results)