2018 Fiscal Year Research-status Report
Research on general structure of consciousness based on Husserl's phenomenology of time-consciousness
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18K00048
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
村田 憲郎 東海大学, 文学部, 教授 (80514976)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 現象学 / フッサール / 時間 / 時間意識 / ブレンターノ |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究課題は、フッサールの時間意識の現象学の背景となっている、ブレンターノ学派やその他の心理学者の議論を把握することによって、フッサールによって暗黙裏に前提されている哲学的問題を明確に理解し、彼の議論をその問題設定の上に再構成することであった。 具体的には、フッサールが明示的に参照しているブレンターノ、マイノング、ウィリアム・シュテルンの時間論を検討し、彼らが抱えていた問題とそれに対するフッサールの解決案を明確にした。ブレンターノについては、継起するものについての表象の可能性を問う彼の連続体論の枠組みを受け継ぎながら、フッサールは時間的継起を表象内容によって説明する内容説に代えて、統握作用の作用性格によって説明する統握説を唱え、また現在を刺激の因果的所産である点的瞬間としてしか認めないブレンターノの狭い規定から手を切ることで、継起的対象の知覚の可能性を開いたことを明らかにした。またマイノングとシュテルンについては、時間的対象についての知覚をめぐる彼らの論争を検討し、近接する過去を現在のうちに取りまとめることによって継起の知覚を説明するマイノングの説と大枠においては同型だが、意識作用それ自体も時間の中で継起しているとするシュテルンの説をも取り込む、両者の折衷説をフッサールがとっていることを明らかにした。これらの研究成果は、6月のNASEP (The North American Society for Early Phenomenology)の研究大会、11月の日本現象学会研究大会、2019年3月のフッサール研究会にて発表された。 また、ヴントの実験心理学やフェヒナーの精神物理学とブレンターノとの関係を調査し、19世紀後半の議論の動向について大まかな見通しを得ることができた。その成果は9月の日本心理学会のシンポジウムにて発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ブレンターノ学派との関連性においてフッサールの時間意識の現象学を理解しなおすことが2018年度の目標であったが、その目標はおおむね達成されたと言える。不十分な点をあげれば、ブレンターノやマイノングの哲学の全体像の理解という点では、より明確にする必要を感じているが、その反面、当初は予定していなかった点として、第一に、当時の心理学のより大きな文脈の中での捉え直しができた点と、第二に、主に二年目に予定していたフッサール自身のテキストの読解が進んだ点とを考慮すれば、総じて予定通りと言える。具体的には、第一の点では以下のことを突き止めた。すなわち、ブレンターノとヴントやフェヒナーの関係について、ヴントがカントに反して心的なものに時間に加えて強度という第二の変数を認め、心理学を両者の関係を定式化する精密学と位置づけ、他方フェヒナーは感覚の強度と刺激の強度との関係を関数的に表現したが、この動向に対してブレンターノは反対でなくむしろより徹底した解釈を加え、心的なものの時間的連続と強度変化の関係の研究を独自に推し進めた。この問題はブレンターノにおいては断片的にしか見られないが、関連する問題が学派全体に広く共有されていると思われ、フッサールの時間論もこの動向に緩やかに位置づけられうる。第二の点では、1904/5年の時間講義と同時期の講義、フッサール全集24巻の『想像・像意識』講義、38巻の『知覚と注意』を通読でき、想像意識の細分化と知覚の拡張という、私が想定しているブレンターノからの離反について傍証をえた。この二点を考慮すれば、トータルではゴールに予定通り近づいていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は予定通り、フッサールの講義や研究草稿の読解に移りたい。具体的には、フッサールの1906年以降1911年頃までの時間論の発展についての研究を行う。この時期の時間草稿を読み直しながら、あわせて同時代の、1906/7年の講義『論理学および認識論入門』(全集24巻)、1907年の『現象学の理念』(2巻)、『物と空間』(16巻)などを通読し、時間論の発展との関連を探る。本研究の作業仮説は、1905年の時間講義が、1906/7年の講義で言及された、存在者の学としての形而上学の構想と関係づけられるべきであり、またこの形而上学の構想が、1907年の「物」と「空間」についての現象学とも関連しているはずだというものであるが、この二点をテキストの精査によって確認ないし修正し、フッサールが1904/5年に探求した継起的対象の知覚の議論からどのように発展したかを見る。なおこの時期、フッサールの時間論には、時間を構成する意識流の着想や統握-内容図式の問題視が見られ、より完成形に近づいていくが、この議論との関連性を探る。 これと並行して、以下の二点について引き続きブレンターノ学派の研究を進める。 ・ブレンターノの連続体論の研究。目下ブレンターノの議論は公刊著作『経験的見地からの心理学』と講義ノート『記述的心理学』に依拠しているが、フッサールが直接参照している議論は同時期の別の講義内容であり、この理論内実の確認のためにはオーストリア・グラーツのブレンターノ文庫にて未公刊テキストを見る必要がある。この調査を今年中に計画している。 ・エーレンフェルスの研究。継起的対象の表象ないし知覚についてのブレンターノとマイノングを研究する上で、重要な中継点をなすのが彼の有名な論文「ゲシュタルト質について」であるが、この論文について研究することでブレンターノ学派の動向の統一的な理解をめざす。
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Causes of Carryover |
初年度は次年度と比べて多めに予算が計上してあったが、今後の研究欄にも書いたように、今年度に海外での文献調査を計画しており、航空券や滞在費に関して予想外の出費もありそうに思ったため、前年度はそれを見越して、書籍代・物品等を節約した。研究に必要な書籍類でも今年は原則購入は行わず、すでに手元にある文献を中心に研究を進めた。研究の進捗が年次計画通りでなく、部分的に前倒しであったり次年度持ち越しであったりするのはこうした理由による。 もう一点、今年の計画には明記しなかったが、海外から研究者を招聘して講演会を予定しており、来年度になるか今年度になるか不透明である。この点についても配慮して、予算の使用を控えめにした。
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Research Products
(6 results)