2018 Fiscal Year Research-status Report
Jacques Derrida and the Questions of religious philosophy
Project/Area Number |
18K00050
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
守中 高明 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80339655)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 他力 / 生成変化 / 赦し / ほどこし / 有限性 / 往生 / 差延 / 脱構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、2018年度を通じて、研究計画書に記した(1)脱構築と〈信〉、(2)宗教的実践としての贈与(施し)、(3)赦し得ぬものの赦し、(4)「他力」の実存論的分析という4つの項目すべてについて、一次文献の解読・分析、先行研究の批判的検討、および現代哲学の援用による網羅的研究を行ない、その成果を書きおろしの単著『他力の哲学――赦し、ほどこし、往生』(河出書房新社、全249ページ、2019年2月刊)にまとめることができた。 同書は、法然・親鸞・一遍へと展開された日本浄土教の主要概念を、カント、ニーチェ、ハイデガーらのヨーロッパ哲学を参照しながら新たに定位し直すと同時に、マルセル・モース、ドゥルーズ&ガタリ、そして本研究の主題であるジャック・デリダの思考に接続することで、最大限に現代化することを目指したものである。 とりわけ高い独自性を有する成果としては、(1)法然が日本宗教史上初の仏教的共和主義者であったことを論証した点、(2)親鸞における「還相廻向」が「称名念仏」を媒介とする宗教者とマイノリティの相互的生成変化の運動であることを明確化した点、(3)一遍における「賦算」という「ほどこし」をモースおよびデリダによる贈与論から読み解き、その社会編成作用を分析した点、(4)ハイデガー的「有責性」から人間存在を解放する力を法然・親鸞の「赦し」概念がもつことを解読した点、(5)法然・親鸞・一遍へと純化されていった「往生」概念が、なんら神話的フィクションではなく、デリダにおける「差延」概念と完璧に一致するリアルな時間の経験であることを明らかにした点などが挙げられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に明記したように、報告者は本研究の申請時に立てた計画をすでに完全に実現し、「2020年末までに刊行予定」であった成果のまとめとしての著書を、2019年2月に出版することができた。したがって、現状は最も早い進捗状況であると言える。 この著書の本格的な受容はこれから期待されるが、すでに複数の書評が新聞に掲載(「仏教タイムス」2019年3月14日号、「東京新聞」2019年4月14日朝刊、その他コラム二つ)されたほか、本書をめぐる著者対談(「図書新聞」2019年4月6日号1~3面)や著者インタヴュー(「中外日報」2019年4月5日号)が行われるなど、一定の反響があった。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画を実現し著書を刊行することができたため、今後はこの成果を踏まえて、本研究のテーマである「ジャック・デリダにおける宗教哲学の諸問題」の一部をなす、連続性のあるつぎの新たな計画に沿って研究を遂行する予定である。研究課題「日本仏教思想と新たな相互扶助社会の理論――法然・親鸞・一遍からデリダそして私たちへ」(仮題)。これは、三人の仏教者の遺した著作や歴史資料の読解を通して、社会の既存のインフラ・ストラクチャーに依拠しない自律的で可動的なネットワークを形成するためにどのような原理があり得るかを考察することを目的とし、とりわけジャック・デリダにおける「贈与論」やジル・ドゥルーズ&フェリックス・ガタリにおける「集団的アレンジメント」概念との接続により、新たな相互扶助理論=アソシエーショニズムの思考を描き出すことを目指すものである。
|
Causes of Carryover |
当初予定していたフランスのアーカイヴ(IMEC)での資料調査を行わなかったため、「旅費」の支出がなかったこと、およびすでに収集した資料をもとに書き下ろし単行本の執筆に集中したため、新規の書籍等の購入の必要が予想を下回ったことによる。 次年度は、新たに問題系を設定するつぎの著作執筆にむけて、相当量の新規の書籍・資料の購入を予定している。
|