2018 Fiscal Year Research-status Report
『ブリハットカルパバーシャ』を中心とするジャイナ教教団の運営に関する総合的研究
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18K00056
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河崎 豊 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (70362639)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤永 伸 都城工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (70209071)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジャイナ教 / 戒律 / 出家教団 |
Outline of Annual Research Achievements |
白衣派ジャイナ教における出家教団の運営理念を示す最古の文献であるチェーヤスッタに対する諸注釈のうち、チェーヤスッタ各条文の実際的な運用を定めるバーサ文献中最古の成立と見做される『ブリハットカルパバーシャ』(以下BKBhと略す)を精査して、白衣派ジャイナ教における出家教団運営の実際を具体的に検証した。概要は以下の通り: (1)BKBh のうち、冒頭部のピーティカー(「小さな座」)と呼ばれる箇所(全808詩節)の読解に従事した。分担者・協力者の所在が日本各地に分散しているため、代表者(河崎豊)がBKBhと梵語複々注の下訳を作成し、メールで配布する等して集中的に検討する手法を取った。ピーティカーの本格的研究はなく、BKBhにおけるピーティカーの位置づけも不明な点が多いため、ピーティカー全体の内容を整理することを心掛けた。最終的にBKBh全体の内容と照合した上で、ピーティカーの位置づけを検討するための予備作業と位置づけられるものである。 (2)代表者は2018年7月にバンクーバーで開催された国際サンスクリット学会に参加・発表し、現在の研究について海外の諸研究者と意見交換を行なった。また2019年3月に東京大学で開催されたシンポジウムで、ジャイナ教と世俗社会との関わりを示す一資料として、ジャイナ教におけるクシャトリヤ観について発表した。また、白衣派教団における出家適性をめぐる議論を扱った論考を『ジャイナ教研究』誌上に発表した。 (3)ベンガルール大学名誉教授 Hampa Nagarajaiah 氏を招聘し、2018年9月に国際研究ワークショップを開催した。その際、研究協力者(藤本有美)が「バーサ」文献を資料とし、財産が必要となった修行者のための規定に関する発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題が採択される直前に、これまで校訂されたことがなかった新たな韻文注釈が出版された。当該資料は『ブリハットカルパバーシャ』に対してこれまで知られていた諸注釈の中で最も古い可能性があり、本研究課題を進める上で不可欠の資料と考えられる。そのため、全体の進捗が当初より遅れるリスクをとって急きょ検討資料として組み込んだ。結果、進捗状況は予定よりも遅れる結果となったが、研究自体は却って当初の予定よりも充実した結果を残している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)BKBh第一章以降の読解を進めることを基本とする。その際、(1-1)出家教団と世俗社会との関わりをより明確に示すと考えられる箇所を重点的に調査する。即ち、BKBhでは原則を示した後にそれへの例外事項を示す際に、例外を適用する基準を示すものとして「不吉時、飢饉時、王に憎まれている時、恐怖のある時」という表現がBKBh全体に亘って散見される。本年度は特にこのうち「王に憎まれている」状況が、いかなる戒律条項に対する例外事項として適用されるかを跡付け、BKBh実際に想定する具体的な例外規定の運用を検証する。(1-2)BKBhは空衣派ジャイナ教諸文献と顕著な平行関係を示す部分が散見される。本年度はそれらの箇所を重点的に調査し、両派間での解釈の相違(の存在の有無)等、比較研究を行なう。 (2)昨年度の研究成果を日本印度学仏教学会にて発表し、研究者と意見交換を行なう。 (3)インドで短期間の調査に従事する。査地はグジャラート州あるいはカルナータカ州を予定する。
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Causes of Carryover |
研究分担者による海外出張の費用として使用予定だったが、分担者の公務の都合により、出張を行ない得なかったことによる余剰である。 上余剰金は、分担者による今年度の海外出張、具体的にはインドでの調査、あるいは2020年3月にロンドン大学で開催される Jaina Studies Workshop への渡航費用として用いる予定である。
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