2021 Fiscal Year Research-status Report
中世インドにおける帰依思想の民衆化に関する思想史的研究
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18K00058
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
井田 克征 中央大学, 総合政策学部, 准教授 (60595437)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 印度哲学 / 宗教学 / バクティ / リーラーチャリトラ / マハーヌバーヴ派 / マラーティー語 / 帰依 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はインドのマハーラーシュトラ州北部ゴーダーワリー川流域およびヴィダルバ地方においてチャクラダル・スワーミーと呼ばれる人物が13世紀に創始し,民衆的な支持を得て大きく発展した信仰集団マハーヌバーヴ派の根本聖典『リーラー・チャリトラ』を取り扱い,この地域において生じた帰依(バクティ)の宗教が民衆化を果たした経緯を考察するものである。 この派の根本聖典『リーラー・チャリトラ』は,「エーカーンカ」「プールヴァ・アルダ」「ウッタラ・アルダ」という三部から構成されている。昨年度に引き続いて,本年度もまた思想的に重要な記述の多い「ウッタラ・アルダ」を中心的に取り扱った。 具体的な作業としては,まず第一に当該テキストの翻訳作業と,そのテキスト自体の読みが疑わしい箇所に対する再校訂作業とからなる文献学的研究が行われた。そして第二にその成果に基づいて,テキストに示された救済論や民衆への教化の方法,そして出家者たちの生活規範や倫理規定などを解明する,思想史的研究が進められた。それらの成果は,関連プロジェクトのワーキングペーパーや,いくつかの論文,研究報告などとしてまとめられた。 今年度もまた新型コロナウイルス感染症の流行によって現地調査が困難となった。当初予定していた写本調査も遂行できなかったが,そうした状況は十分に予想ができていたため本研究においては当初より写本校訂の比重を軽くして,その代わりに他の初期聖典を幅広く参照することとした。これによって,『リーラーチャリトラ』の思想の歴史的位置づけがより明確なものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延によりインドにおける現地調査が執行できなかったこと,現地の研究者との交流が途絶えたことなどによって,当初予定していた研究計画を大幅に見直す必要が生じた。 写本資料が十分に扱えない一方で,すでに公刊済みのものなどを中心として取り扱うテキストの量を大幅に増やしたため,『リーラー・チャリトラ』をより大きな視点から考えることが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間を延長したため,2022年度が一連の研究の最終年度となった。これは現地調査が困難になったために研究計画を見直し,取り扱うテキストの量を増やしたことに対応するためである。 最終年度はこれまで進めた個別の研究を取りまとめて,13-14世紀のマハーラーシュトラにおいて帰依の宗教がいかなる発展を遂げたかという問題に対して,新しい見取り図を提起したい。 現在のインドの状況を見るに,地方での写本調査にはまだ困難が伴うものと思われる。一方で都市部の大学や研究所は,徐々に本来の機能を取り戻しつつあるように見える。ゆえに状況によっては,プネー大学やバンダルカル東洋学研究所などを訪れて,本研究の成果に関して現地の研究者と討議する機会を得たいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行に伴う研究計画の変更によって,イギリスにおける資料調査およびインド・マハーラーシュトラ州における現地調査が実行されなかった。 また国内外の研究会,学会等がほとんどすべてオンライン開催となったため,出張も不要となった。 次年度に置いては,状況次第ではあるが国内外の出張を検討する。また次年度は研究計画の最終年度ということもあって,研究成果をとりまとめるために必要な電子機器等の購入も検討する。
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Research Products
(6 results)