2020 Fiscal Year Research-status Report
漢訳仏典の受容後に生じた漢語ベースの思考法の解明:中国仏教の漢字術語の重層性
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18K00061
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
船山 徹 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (70209154)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 漢訳 / 仏典 / 漢字音写語 / 意訳 / 音訳 / 漢字ベースの思考法 / インドの伝統的解釈の継承 |
Outline of Annual Research Achievements |
5ー11世紀頃の中国仏教思想史の根幹的な発展に関わる漢字仏教語(仏教漢語)に着目し,古典漢語の文献を中心に,インド語原典やチベット語訳を含めた一次資料の分析により,漢語に特有の仏教語の語義解釈に迫る本研究は三年目を終了した。二文字の仏教漢語「大乗」「印可」「聖地」「五陰」「五蘊」「自体」「自性」「体性」「体相」,一字の仏教漢語「心」「魔」「忍」,三字の仏教漢語「四聖諦」,そして更に漢字音写語(音訳)として「天竺」について大蔵経を網羅的に調査し,思想史的・文化史的に意味のある原文を蒐集することに努めた。さらに,6世紀初頭の『出要律儀』に見られる音写語95語を主に扱い,更に本来音写語であった語が漢字としての意味を有する語と誤って解釈された例を二つ見出し,更に事例数を増やすべく,資料を作成し始めた。 研究実績として次の論文を出版した。 船山徹(単著)「『出要律儀』佚文に見る梁代仏教の音写語」,『東方學報』京都95,2020, 522-402. Funayama Toru (単著), "The Genesis of *Svasamvitti-samvitti Reconsidered." Mark Siderits, Ching Keng, and John Spackman (eds.), Buddhist Philosophy of Consciousness: Tradition and Dialogue, Leinden/Boston: Brill Rodopi, 2021, pp. 209-224. 船山徹(単著)「仏典の伝播と日本の経蔵」,吉田一彦・上島享編『日本宗教史2 世界のなかの日本宗教』,吉川弘文館,2020,146-168.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4年計画の3年を終了した現時点で,本研究の対象となる仏教漢語として88項を抽出し,それぞれのファイルを作成した。各ファイルは,仏教漢語を見出し語とし,思想史的言語史的な画期と判断される漢語原文の全文・関連サンスクリット語資料・原文の現代日本語と語注を収める。これに基づいて最終年度には語彙項目を約100項とし,一つの原稿として公開出版する予定である。 本年度は上掲論文「『出要律儀』佚文に見る梁代仏教の音写語」において,6世紀初頭という限定された時期に,南北朝の南朝(梁)の都である建康(現在の江蘇省南京)という元的された地域において発達した音写語を100項目足らず列挙し,その全てについて原文と和訳と注を付し,網羅的に検討できたことが大きな成果であった。その中から,6世紀初頭の中国人仏教専門家が仏典漢語を全く誤って解釈している複数の事例があることも判明した。また,漢字音写の体系的表記法として,6世紀初頭と7世紀中期(中国仏教史最大の漢訳者である玄奘の時代)との間に存する一つの明確な相違点を見出し,それを「音素還元主義」と命名したことも本年度の著しい成果として挙げることができる。 研究全体の過程として,三年目である本年の研究者概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は,最終年度4年目を残すだけであるが,5ー11世紀頃の中国仏教思想史の根幹的な発展に関わる漢字仏教語(仏教漢語)として約100語を具体的に抽出し,その原文と現代語訳と注釈を付す研究成果語彙資料集を作成する。 和訳以外に英訳を併記する際には,英語の適否と関連研究とについて,本研究申請時に言及したマイケル・ラディッチ氏と緊密な交流を維持し,意見を求め,同氏への謝辞を明記する形式で最終成果報告を纏める予定である。 成果報告書として,最終的に4年の計画を集成した一冊の資料集として出版することを考えている。出版年は4年度目となるか,更に翌年となるかは,事業の進行状況に応じて適宜判断し,具体的に原稿を準備したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は残金として277,005円を次年度に繰り越す。残金が生じた理由は,コロナウィルスのまん延によって自らが海外出張することも,関連研究者を国外から招へいすることもできなかったために,旅費の資料に関して予定が大幅に変化したことに起因する。旅費にかわって一部を消耗物品費として使用したが,それでも27万円余りの残額が生じた。 残金の使途は現在のところ確定していないが,二つの可能性を検討中である。その一つは,最終年度である4年目に旅費として使用し,それによって当初の研究計画に見合う活動を行い,有意義な成果を生む研究事業とすることである。もう一つは,残金を使用して研究成果報告書として『漢語仏典の特色:原文と訳注』(仮題)を紙媒体で出版することに充てることである。どちらとするかは最終年度の事業進行状況に合わせて適切に決定したい。
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