2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00077
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
鶴岡 賀雄 南山大学, 南山宗教文化研究所, 研究員 (60180056)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 神秘主義 / スペイン / キリスト教 / 影響史 |
Outline of Annual Research Achievements |
スペイン神秘主義自体は16~17世紀の宗教思想・運動だが、本研究はそれが後の時代にどのように受け止められ評価されて、各時代、地域の思想や文化形成にどのような影響を与えたか、さらにそうした評価、とりわけ20世紀前半に形成された「スペイン神秘主義」のイメージが、近世初頭のこの宗教思潮、宗教運動の理解をどのように規定してきたか、を見ようとするものである。研究の初年度である2018年度には、そのための基礎作業として、スペイン神秘主義という一連の思想運動が現在(二十一世紀初頭)の研究状況下でどのようにとらえられているかについて調査し、それを踏まえて研究代表者(鶴岡)自身がこれをどう見通しているかについて、あらためて明確にする作業を行った。その成果は、この「スペイン神秘主義」を主題として近刊予定の著書の「序章」として発表予定である。 スペイン神秘主義についての後世の理解については、これまでほとんど忘れられていたPaul Rousselotの著作Les mystiques espagnols (1867)に着目し、その特徴を抽出した。同書は、近現代の「スペイン神秘主義」概念の基本的枠組みを始めて提出した重要な著作と評価すべきと思われる また、西欧の19世紀末から20世紀初頭は、いわゆる世紀末的雰囲気のなかで、神秘主義がさまざまな分野で、ひとびとの関心を引くようになっていった時代だが、この時期の「スペイン神秘主義」のイメージを探るべく、ユイスマンスやレオン・ブロワといったカトリック作家たちの文献調査を開始した。並行して、20世紀後半以降の、いわゆるフランス現代思想における神秘主義、とりわけスペインの神秘主義へ参照のされ方についても、調査を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「概要」の項で記した、小説家や芸術家たちによる「スペイン神秘主義」(とくにアビラのテレジアと十字架のヨハネ)イメージの検討は、本研究の重要課題と位置づけているが、資料の性格上網羅的な調査は困難であり、また直接的に参考となる先行研究が少ないため、研究方法上の工夫が必要となってきている。何人かの作家、詩人については一定の知見が得られているが、それらをどのように扱うかについての検討が課題となっている。 一方、神学者や哲学者の「スペイン神秘主義」論については、従来の研究で培った知識が活用できるので、研究は、おおむね順調に進められている。「概要」欄で記したPaul Rousselotに続く世代のスペイン神秘主義論については、依拠できる先行研究もあり、おおよその見通しはできつつある。2018年度で最も研究が進んだのは、より新しい、二十世紀後半から現代におよぶ宗教思想、哲学思潮の中での「スペイン神秘主義」の扱われ方にかんするもので、いわゆるフランス現代思想ないしそれに連なる思想圏の人々がこれをどう位置付け、どのような「刺激」をここから得ているかを論ずるための資料をある程度収集できた。この方面についてはさらに研究を拡げたい。 以上に加えて、文化伝統としてもスペイン神秘主義の直系にいると見ることのできる二十世紀後半の重要な宗教思想家、カタルーニャ生まれのインド系スペイン人Raimon Panikkar(1919-2010)について、集中的な研究を開始した。Panikkarは、大学の研究者であるとともに、現代的「神秘家」と見ることのできる人物であり、近年全集が刊行中である。その「スペイン神秘主義」理解は、カトリックないしキリスト教という「宗教」の枠を越えて、「神秘主義」を現代の多くの人に実践可能なものとしようとしているものと見ることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、文学者や芸術家たちにスペイン神秘主義が与えた刺激について、現在得られている知見を拡げつつ、学術的に論ずる方法について検討を深める。そのためには、研究代表者の知識が十分でない文学史・文学研究、美術史等での研究状況の調査が必要であり、関連文献の収集も必要となる。そのために、もっとも充実した資料調査が可能とおもわれるパリで、短期の資料調査を行うことを計画している。 神学者、思想家についての研究は、着手した研究を着実に進展させて、学術論文として発表することを目指す。 Panikkarについては、自身の活動拠点としてバルセロナ近郊に彼が設立したVivarium研究センターを訪問し、各種の資料、情報の入手を行う予定である。彼の活動は、スペイン神秘主義の、「研究」と「実践」の境界を越えていくものであり、このことの意義について検討を深めたい。 これらを通じ、本研究の最終目標、すなわち近現代の「スペイン神秘主義」観を相対化して近世スペインの神秘家たちにたいする新たな読み方を開拓するという目標の達成に向けて、拡げた視野をどのようにして具体的なかたちにまで収斂させていくか、実質的な見通しを確立することを目指す。
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Causes of Carryover |
研究費は概ね予定通り使用したが、当初見込んでいた海外資料調査は、研究の進捗状況、および研究代表者(鶴岡)の研究環境についての事情により、次年度に延期したため、若干の未使用分が発生した。 その分は、本年度の海外出張費に充当される予定である。
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Research Products
(3 results)