2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00077
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Research Institution | Seisen University. |
Principal Investigator |
鶴岡 賀雄 清泉女子大学, 文学部, 非常勤講師 (60180056)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 神秘主義 / スペイン神秘主義 / 影響作用史 / 十字架のヨハネ / ライモン・パニカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)十六~十七世紀の「スペイン神秘主義思潮」が十九~二十世紀の神秘主義概念--「近代的神秘主義概念」と呼ぶ--形成に際して果たした役割を精査するとともに、(2)この「近代的神秘主義概念」の成立によって、逆に近世初期のスペイン神秘主義思潮、とくにその中心的人物であるアビラのテレジアと十字架のヨハネに対する近現代の研究者の見方がどのように方向付けられ、新たな読解を生んでいったのかを追跡しようとする。いわゆる影響作用史の実際を、「スペイン神秘主義」に即して見ようとするものである。 昨年度は、(1)について実質的な見解を得るに到り、その骨子を日本宗教学会学術大会において発表した。しかし学会発表は文字通り骨子を述べるにとどまっており、具体的な肉付けをした論文の執筆を準備中である。 「近代的神秘主義概念」は、宗教思想、宗教実践そのものに新たな地平を拓く可能性をもってもいる。当該年度(令和2年度)には、スペイン神秘主義思潮の影響を強く受けながら独自の宗教哲学研究と宗教実践を行ったスペイン(カタルーニャ)出身のライモン・パニカーについて、「宗教」の枠を越えるその思想と実践について検討する論文を執筆し、共編著中に発表した。ただしパニカーとスペイン神秘主義思潮との関わりの具体相については、スペイン(ジローナ大学)所蔵のパニカー関連資料の調査によって探ろうとする研究は、同様の理由で実現できていない。 また、「近代的神秘主義概念」の成立事情の解明は、それに規定されないスペイン神秘主義思潮の新たな研究の遂行につながるものである。その意図のもとに、十字架のヨハネに関する新たな研究論文を二篇執筆した(「原罪から栄光まで--十字架のヨハネの原罪論の射程--」、「愛の等しさ--十字架のヨハネの「神人合一」論の要諦--」が、収録予定の共同論文集の編集状況から、ともに刊行は今年度(令和三年度)になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、昨年3月にスペインで、近代的神秘主義概念の成立事情に関する研究発表(バルセロナ、ポンペウ・ファブラ大学)と、ライモン・パニカーについての資料調査(ジローナ大学)を行い、8月下旬にニュージーランドで開催される国際宗教学宗教史会議においてパニカーについての研究発表を行う予定だった。また9月には、日本では参照できない資料をパリ国立図書館等で調査して、本研究のための資料上の欠を補う作業を予定していた。しかしこれらは新型コロナヴィールスの蔓延のためすべて不可能となった。やむをえず国内で可能な研究を遂行し、「実績の概要」欄に記した成果を得たが、研究成果の発信および研究資料の充実の面での遅れは否めない。 ただし、本研究の本質的部分は、海外の資料の参照を不可欠とするものではなく、すでに入手済みの文献に基づいて有意義に遂行することは可能であり、本年度中に、所期の研究のおおよそを実現できると考えている。 なお、これは研究遂行上の障害とは言えないが、昨年夏以来、家族の介護状況が深刻度を増し、相当の労力を費やすこととなっていることを付記しておく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、広範なワクチン接種等によって、日本およびヨーロッパのコロナヴィールス感染状況が改善し、研究のための渡航が可能になれば、中止していた資料調査を本年度中に遂行したい。しかし本年度も海外渡航が不可能となった場合には、執行を本年度に繰り越した渡航費用は返還することとなる。ただし、ぜひ参観したい資料については、欧州に在住の知人に資料調査および文献複写等を依頼することも検討しており、その場合は、予定していた海外旅費をそのための実費や謝金に充てたい。 研究成果の国際的発信の停滞については、当初発表の場所として予定していたポンペウ・ファブラ大学の事情次第であるが、すでに発表草稿は送付済みであり、なんらかの形での研究発表ないし意見交換を実現したい。 なお、本研究は、研究遂行者の積年の研究の一環をなすものであり、実質的には本年度以降も継続されるものである。本研究助成の遂行機関中に十分な成果につながらなかった部分については、助成期間終了後に完成させ、研究成果としてぜひとも公開していきたい。
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Causes of Carryover |
資料調査等のための海外渡航の準備が整わず、計画を次年度に回すことにしたため、旅費の使用額が予定より大きく減った。 また、購入予定だった全集の刊行が遅れるなど、研究用資料(主に外国図書)の購入額も予定を下回った。
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Research Products
(3 results)