2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K00096
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
村田 雄二郎 同志社大学, グローバル・スタディーズ研究科, 教授 (70190923)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 陳独秀 / ピンイン / 言文一致 / 文字改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
・陳独秀の未公刊の草稿『中国ピンイン文字草案』を入手し,原稿の整理と分析を行った。これは,陳独秀の弟子でその死後に移行を整理した何子瑜の手になるものであり,原稿の成立過程や執筆の背景が明らかになった。 ・近代中国における言語学の展開および国語政策や文字表音化運動に関する先行研究を入手し,陳独秀の文字学の背景に関する理解を深めた。 ・上記の初歩的な考察を,2018年12月15日(土)に関西大学で開催された国際シンポジウム「国語施策/言文一致運動を東アジアの視点から考える」にて,「陳独秀の言文一致思想」と題して発表した。その結論は,以下のとおりである。(1)陳独秀の中国語表音化構想は,中国語を完全にローマ字化する,あるいはエスペラントを全面採用するといったラジカルな改革方案に比べると,文字改革を過渡期の便法とする穏健なもので,革命運動による社会の改革と同時並行で進められるべきものであった。この点,その急進的な政治路線から,陳独秀の言語思想が解釈されていた既往の見方は修正されなければならない。(2)そうは言うものの,共産党のリーダーとして,陳独秀の言語観は一貫して階級論的な立場に発するもので,瞿秋白ら同じ左翼陣営の「国語」批判や「洋八股」批判と一脈通じていた。陳独秀のピンイン化構想が時代に直接影響を与えることはなかったが,民国期の左翼陣営による代表的な「国語」批判として重要であることに変わりはない。(3)方言を活かし,民衆のことばを取り入れるという陳独秀の言語改革の構想は,一種の文化革命としての性格を帯びている。民衆の生活に根ざした言語・文字改革という思想は,近代中国における革命思想の一つの重要な水脈である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・最大の成果は,鍵となる草稿『中国ピンイン文字草案』を入手できたことである。初歩的考察により,これは通説となっている瞿秋白らのラテン新文字よりも早く,独立に構想されたものであり,中国語のアルファベット化(ピンイン運動)の歴史を書き換えるにたる重要著作であることを確認した。文字の判読が困難な部分があるなどの理由で,原稿整理はまだ続いており,2019年度中に『中国ピンイン文字草案』を活字化するとともに,解題・注記を付して,国内の学術誌に発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
・『中国ピンイン文字草案』を整理した上で,資料紹介にかたちで公刊し,江湖の利用の便に供する予定である。 ・同時に,陳独秀の文字学をピンイン文字構想の関連をより深く考察し,学術論文にまとめるとともに,国際学会でその成果を発表する。
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Causes of Carryover |
中国や台湾への資料調査を目的としていた出張経費を計上していたが,大学の公務の過多などの事情で,初期の目的を果たせなかった。このため,次年度に旅費として繰越使用することにしたものである。
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