2022 Fiscal Year Annual Research Report
The Theoretical Foundation of Sexual Diversity in Lacanian Perspective
Project/Area Number |
18K00098
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
原 和之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00293118)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラカン / 性の多様性 / 欲望の弁証法 / 性別化 / 性同一性 / 性対象選択 / 対象 / バトラー |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度はここまでの研究の成果を踏まえ、性の多様性を包摂する精神分析理論の可能性について、総括的な検討を進めた。そのなかで1950年代のジャック・ラカンによる「欲望の弁証法」をめぐる議論を基礎として、性差の引き受けないし「性別化」を、主体が出生後に直面する問題を他者の欲望を想定することを通じて解決しようとする試行錯誤の二つの系列として理解するモデル(DDモデル)を提示し、その射程を検討した。 身体的な両性性に依拠することなく、純粋に心的な両性性を考えることを可能にするこのDDモデルは、従来の精神分析の性的発達をめぐる議論を制約している諸条件を指摘することを可能にする。すなわち(1)父母と男女の重ね合わせ、(2)性同一性と性対象選択の同時的成立だが、DDモデルによりこれをアプリオリに前提としない性差の引き受けを考えることができるようになることを示した。さらにこのモデルは、それぞれの性同一性に複数の可能な性対象選択を対応させるものであること、また性差に対応する二系列の間の移行を考えることを可能にする自由度をもつものであることを明らかにした。 このDDモデルからはさらに二つの展望を得ることができる。第一にこの枠組みで区別される系列が二つになる理由であり、これについてはある一定の「対象」概念と相関しているという仮説を立てるに至った。第二にDDモデルが性同一性の成立を説明するものであるのに対し、性対象選択の成立が独立した問題になるわけだが、これについては後期ラカンの議論を手がかりに解明できるのではないかという見通しを得ている。 以上の議論を米国での研究発表およびフランスでの講演で発表し、それぞれ現地の研究者と意見交換を行ったほか、日本ラカン協会にて日仏の研究者による国際シンポジウムを組織し、ジュディス・バトラーを参照しつつ構想される包摂的な精神分析のあり方について議論を行った。
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Research Products
(3 results)