2021 Fiscal Year Research-status Report
Japan-Germany joint research on the ideological historical significance of <Basic Income> to <Sustainable Society>
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18K00103
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
別所 良美 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 名誉教授 (10219149)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Basic Income / 持続可能な社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、コロナ感染状況の影響により、また2021年3月末の定年退職に伴う研究環境の変化により研究交流活動に関してはほとんど実施できず、自宅での文献研究を行なうのが中心となった。 2021年11月6日には名古屋哲学研究会の例会をBI研究会との合同研究会として会議を開催し、仲正昌樹(金沢大学教授)氏が報告「貨幣と信用:MMT論争から貨幣の本質を考える」を行った。MMT(Modern Monetary Theory)は、貨幣を等価交換の価値媒体と捉えず、それを徴税能力をもつ主権国家が発行する「債務証書」(≒国債)とみなし、徴税能力の範囲で国債発行増を許容する理論である。仲正報告は、MMT論者に欠ける哲学的基礎付け論を取り上げ、デヴィッド・グレーバー、ゲオルク・フリードリヒ・クナップ、アルフレッド・ミッチェル=レイなどの論者の議論を検討している。その要点は、貨幣を説明するには、貨幣が金属貨幣に対象化された労働量実体に基づくという古典派経済学以来の労働価値説ではなく、共同体での人間関係を律する「負債」関係に基づくという「貨幣=負債」論を採用すべきであるという点にある。歴史的、文化人類学的、また宗教的な概念でもある「負債」が経済的な交換や信用を可能にしているという議論である。この議論のベーシック・インカム(BI)論に対する含意は、社会構成員全員に対する基本所得の無条件の分配というBI論の主張を、共同体の成立基盤となる全般的な負債関係から基礎づける可能性があるということである。つまり、社会の全般的な負債関係の制度的基盤としてBIを全成員に配布することが正当化されるという考えである。ただしこれはかなり大きな問題であり、詳細な検討は今後の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度は、2021年3月末に本務校を定年退職し、研究室がなくなり、大学図書館利用も不便になるなどの研究環境および生活環境の変化が生じたため、研究に集中することが困難であった。新型コロナウイルスの影響は続き、海外研究者との交流もできず、予定の国際シンポジウムの計画もペンディングのままの状態が続いてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度、日本では変異株の感染拡大状況であるが、欧米諸国では次第に日常が戻りつつあり、年度後半には海外との研究交流や国際シンポジウムが可能となるのではないかと希望している。海外の研究者と連絡をとり国際シンポジウムの準備をする予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度に新型コロナウイルス感染状況のために、国内および海外との研究交流ができなかったため。2022年度には国内および海外への研究出張などを予定している。
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