2020 Fiscal Year Research-status Report
知の技法としての人文主義的書簡と近代教養市民の自己形成
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18K00107
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
森 弘一 常磐大学, 人間科学部, 教授 (60239621)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石黒 盛久 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50311030)
高瀬 圭子 (田中圭子) 大分県立芸術文化短期大学, その他部局等, 教授 (60280286)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人文主義 / ルネサンス / 書簡 / 書簡術 / 修辞学 / 教養 / 近代市民 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染拡大により研究の進捗は停滞している。各担当者は、教育学務対応に例年以上の時間と労力を費やすこととなった。国内外の移動も制限され、これまでのような史料調査や研究会活動はできなくなった。これらの点が研究実績に深刻な影響を与えたことは否定できない。 書簡研究に関連する史料・文献リストのデータベース化は、石黒らを中心に研究を継続しており、データ件数は1700までになった。件数は十分揃ったと考えられる。書簡研究や方法論については、個別のアプローチを集約する段階にはいることができなかった。 書簡や書簡作成術の個別研究に関してだが、北方の人文主義的書簡を担当する森は、エラスムス『書簡作成術』研究の継続に、『作成術』の影響の考察を加えたが、成果をあげるには至っていない。ドイツ語圏の人文主義的書簡を主に担当する田中は、コンラート・ツェルティスの書簡の分析を継続し、彼の書簡作成手引と自筆書簡の比較を通じて、書簡作成の理論がどの程度実際の書簡に反映されているか把握することを試みたが、検証の対象をさらに広げるまでには至っていない。イタリアの人文主義的書簡を担当する石黒は、『言語文化論叢』第25号と『金沢大学人間社会研究域学校教育系紀要』に16世紀フィレンツェの文人政治家F・ヴェットーリのマキアヴェッリ宛書簡の翻訳を試みた。 また、基礎史料の翻訳は進んでいるが、十分でない点もある。人文主義的書簡の詳解から、人文主義者らの思想形成過程の考察、近代教養/近代市民の自己形成の検証へと研究を進める点では対応が遅れている。 新型コロナウイスの感染拡大により、予定していた研究の一部は難しくなった。翌(2021)年度が研究計画最終年度であるが、延長申請も視野に入れ、対象や手法を適宜変更して研究総括を行うことを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大は研究の進捗に深刻な影響を与えた。各研究者は大学の遠隔授業対応を始めとする教育学務に、例年以上の時間と労力を費やした。その結果、課題研究に対するエフォートの分量はかなり減少した。国内外での移動も実質ほぼ禁止状態であったため、海外現地での史料研究は不可能となった。国内の定期的研究会での、情報共有や成果発表のような相互研鑽の場ももてなくなった。リモートによる会議をこれに替えようと努めたが、まだ上手く機能させきれていない。 書簡研究に関連する史料・文献リストのデータベース化に関しては、その蓄積は十分進んできた。だが、これらを検証して項目別に整頓する工程を開始したが、進捗は遅れており、データの公表の段階にはまだない。書簡研究の理論や方法論の展開のために、修辞学伝統やポライトネス論に加え、エゴ・ドキュメントや感情史の理論検証に着手した。ただし、理論・方法論の集約化にまでは至っていない。 書簡や書簡作成術の個別研究に関しては、森は人文主義的書簡作成術の最後期として、16世紀末の人文主義者ユストゥス・リプシウスの著作を位置づけ、この期間の作成術の総括を開始した。田中は、ドイツ語圏における人文主義的書簡作成術の受容と拡散の過程を把握するため、15世紀後半以降の大学に着目し、教育課程の中での書簡作成術の位置づけの解明に着手した。石黒は、昨年に引き続き、F・ヴェットーリのマキアヴェッリ宛書簡の翻訳を進め、後者から前者にあてた書簡との相互性を踏まえつつ、書簡の往復を介した近代的個性の自己形成の観点からの考察に着手した。 近代教養市民の自己形成の研究に関しては、公的書簡/私的書簡、ラテン語/俗語、人文主義者/知識知識人の枠組みを共有確認したが、これに基づく詳解研究には進めなかった。また、ネットを利用したデータや研究成果の公開検討の点でも対応が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの感染拡大により、今後は、当初の研究目的の達成を最大限に維持しつつ、対象や手法を適宜修正していく必要が生じた。影響が大きい部分に関しては、延長申請を視野に入れつつ対象を限定して研究を進める。影響が小さい部分に関しては、研究総括の段階までを行うことを計画している。 現地での史料調査・研究は中断し、これまでに蓄積した史料と、ネットや文献で調査が継続可能な史料に基づき、個別の書簡や作成術の研究を進める。エラスムス、ツェルティス、マキャヴェッリ既知の人文主義者やその著作物に対象が限定され、ややマイナーな著作者・著作物の発見や彼らへの考察と言及の機会が減る可能性もある。書簡によるネットワーク形成の考察もある程度限定されるだろう。これらの分野では、こうした制約に配慮しつつ、制約された範囲内での個別研究をすすめる。 史料・文献データベース化は、影響をほぼ受けない分野であり、蓄積データの検証と整理、そして公開は最も優先する部分である。書簡研究の理論や方法論もあまり影響を受けない。エゴ・ドキュメントとしての書簡、諸書簡のやり取りやネットワーク形成の考察での感情史の応用などの視点と、これまでの蓄積を統合した総括を提示する。共有確認した枠組みに従い、近代教養市民の自己形成に関する考察に関しても、個別研究の遅れを考慮しつつ、同様に優先して取り組む。 ウイルス感染拡大をうけての今後の社会状況や研究の遅れに対する方策としては、ネット環境の活用を率先して進める。史料・文献のデータベースだけでなく、翻訳や研究成果なども可能であるものはネット公開し、早い形で社会に成果を示す。リモートによる研究会は、単に回数を増やすだけでなく、方法等を工夫し、対面会議と同様な相互研鑽の場として機能させる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた一つの理由は、コロナウイルス感染拡大により、海外での史料調査等が不可能となったこと、研究成果を公開できる学会や定例の研究報告会がリモート化されたり中止になったりしたため、移動の旅費がなかったためである。また、担当者が教育学務に予想以上に時間と労力を取られ、その結果資料文献を始めとする物品購入が進まなかった点も挙げられる。 新型ウイルス感染拡大の早期収束が見込めない状況では、移動の費用ではなく、文献史料の充実や二次文献資料の充実や、ネット環境の改善向上に、次年度使用額をあてる予定である。また、補助事業期間の延長申請の可能性が高いと考え、延長年度の諸費用にこれをあてることも想定している。
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Research Products
(2 results)