2018 Fiscal Year Research-status Report
〈身体〉が結ぶ神学と医学のエネルギー概念史の再構成:ルネサンスから初期近代まで
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18K00109
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川村 文重 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40759867)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 宗教改革 / 聖餐論 / エネルギー派 / カルヴァン / キリスト / 身体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
4カ年計画の1年目に相当する今年度の取り組みは、エネルギー概念形成上重要局面と考えられるルネサンスから初期近代への転換期において神学から自然学への転位過程を示している個別事象の具体的解明を目指すべく、宗教改革期に一時的登場したとされるカルヴァン派系列の〈エネルギー派〉によるキリストの身体エネルギー概念のもつ思想的革新性の考察をめぐるものであった。その一派の教義は、近代西欧でエネルギーの語が重要視される過程の始まりにあって何らかの意味を担ったのではないか、また、16世紀の聖餐論論争の神学的文脈の中でエネルギーの語の使用がいかなる点で画期的だったと考えられるか、この点を中心にして研究を深めていき、大きく以下の2点の研究成果を得ることができた。 第一に、神性と同時に人間性を持った両義的存在たるキリストの身体性が顕現される場としての聖餐において、パンと葡萄酒がキリストの超越性と物質性を結びつけている。その際、エネルギー派はパンと葡萄酒がキリストへと実体変化するのではなく、また単なるキリストの象徴に過ぎないとも考えず、キリストの身体のエネルギーあるいは力(徳)そのものだと主張した。その聖餐論をめぐる教義とエネルギー概念が示す射程には相当な広がありを持つことを明らかにした。 第二に、このエネルギー派の教義的系譜を明らかにするために、同時代の著作や後代の辞書を参照し、その起源と行方をたどった。それによって、エネルギー派とはカルヴァンの後継者グループではなく、何らかの実体のあるセクトでもなく、エネルギー派的教義を内包し、それを危険視する対抗宗教改革主導者側によって名づけられたカルヴァンの聖餐論の一側面を指していることが明らかとなった。 以上の2点を統合する形で論文執筆を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、上記「研究実績の概要」の末尾で述べたように、論文執筆の仕上げに入っているところである。本研究4カ年計画の1年目で得た研究成果はこの論文に結実する形となるため、ほぼ予定どおり研究が進展したと考えている。なお、完成した論文は所属先の大学紀要に掲載する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「研究実績の概要」であげた2点の解明が進むにつれ、以下の論点に行き着いた。カルヴァンの後期聖餐論の中で急進化していくエネルギー派的側面には、東方教会のエネルゲイア概念の影響を受けていることが推察される。その一方で、カルヴァンが多用するエネルギーや力(徳)といった言葉の用法には、同時代に進行していたルネサンス人文主義の影響が色濃いと考えられる。カルヴァンの聖餐論には彼の教義の血肉となった東西思想交流や世俗思想との交流の様態が浮き彫りになっていると言える。次年度の研究テーマとして、エネルギー派的教義と、新プラトン主義の影響を受けた東方教会のエネルゲイア概念ならびに人文主義の徳概念との内的連関性の解明に据える方針を固めている。
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Causes of Carryover |
旅費が計上していた予算よりも安く抑えられためである。これは、出張先のフランスで当初打ち合わせを行う予定だったフランス人研究者が国際研究会参加の名目で来日した時期に合わせて、国内で打ち合わせを行うことができ、出張の滞在日数を予定よりも短くすることができたという事情によるものである。
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