2019 Fiscal Year Research-status Report
〈身体〉が結ぶ神学と医学のエネルギー概念史の再構成:ルネサンスから初期近代まで
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18K00109
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川村 文重 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40759867)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 身体エネルギー概念 / キリストの身体論 / 聖餐論争 / カルヴァン / エネルギー派 |
Outline of Annual Research Achievements |
ルネサンス期に、能動的内在原理としてのエネルギー概念が、神の超越論的エネルギーから自然の物質的エネルギーへと転位していったという仮説のもとで、キリストの神性と同時に人間性を持った身体をめぐる聖餐論に着眼し、聖餐式におけるパンと葡萄酒はキリストになるのではなく、キリストの身体のエネルギーを表すと主張したという、16世紀の宗教改革期に現れたと後代の辞書で記載されているカルヴァン派系〈エネルギー派〉の思想を追いかけた。このキリストの身体観の変容を通して、身体エネルギー概念が神学(形而上)から自然学(形而下)へと転位する過程の具体的解明を目指した。 まず、〈エネルギー派〉の思想的発生と転位過程を基点とする研究として、16世紀から18世紀までの〈エネルギー派〉に関する記述を洗い出し、〈エネルギー派〉のセクトとしての実態、指導者、彼らの聖餐論が生まれる思想的背景を探究する典拠研究に着手した。その結果、〈エネルギー派〉はセクトとしての実態は実は存在せず、対抗宗教改革の一環としてカトリックがプロテスタントを攻撃するために、元ルター派でカトリックに転向したシュタフィルスという人物によってでっち上げられたものだったことがわかった。ただし、完全なる創作ではなく、カルヴァンの思想の中に〈エネルギー的な身体性〉を重視する傾向が見られたことは間違いない。そして、この典拠研究を通して、キリストの〈エネルギー派〉的身体性論から後代の内在的生命力としてのエネルギー論をつなげる可能性が具体的に見えてきた。 以上の研究成果は紀要論文の形で発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は(4年計画の2年目)は、研究課題計画の前半部である〈エネルギー派〉の思想的発生と転位過程を起点とする研究を総括する予定であった。実際には、〈エネルギー派〉の実態について思いがけない発見があり、大きな収穫を得ることができた。それが今後のエネルギー研究に弾みをつけことは確かである。しかしながら、カルヴァンらのプロテスタントの思想に対し、ルネサンスの人文主義的医学がどのような影響を与えたかについては、まとめ切ることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は在外研究期間にあたるため、研究の大幅な推進が見込まれる。まず、2019年度でまとめられなかった、カルヴァンにおけるルネサンスの人文主義的医学の影響を整理することから始める。 当初の計画では17世紀のイギリス医学における自然神学と医学の関係を〈エネルギー〉概念の生成を通してたどることにしていたが、イギリスの医学思想の研究と同時に、フランスのガッサンディにおける粒子論的物質論に見られるエネルギー概念がルネサンスの自然学からどのような影響を受けたかを並行して研究し、西欧世界におけるエネルギー概念の普及を把握することで、より広い視野の中でエネルギー概念形成研究を遂行したい。
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Causes of Carryover |
当該年度はフランス出張の旅費を予算計上していたが、出張の必要がなくなったためである。夏季休暇中にフランスに出張して、文献収集ならびに現地の研究者との意見交換を予定していたが、その研究者が日本に招聘されることになり、日本滞在期間中に有意義な意見交換を行うことができた。 また、次年度は在外研究でフランスに滞在するため、滞在中には積極的に学会参加をするべく、次年度使用額を旅費に充てる予定である。
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