2020 Fiscal Year Research-status Report
〈身体〉が結ぶ神学と医学のエネルギー概念史の再構成:ルネサンスから初期近代まで
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18K00109
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川村 文重 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40759867)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ミシェル・セルヴェ / 三位一体論 / 神学的エネルギー / 医学的エネルギー / オリゲネス / 自然についての神学 / カルヴァン |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、当初の予定ではカルヴァンにおけるルネサンスの人文主義的医学の影響を整理することにしていた。しかし、カルヴァンの自然観に関する研究をフォローしている際に、思いがけず、本来の研究課題である「神学と医学のエネルギー概念の交差」をその思想の中に体現している宗教思想家兼医学者の存在を発見した。その人物とはカルヴァンの論敵となり、カルヴァンから苛烈な宗教的迫害を受けたミシェル・セルヴェである。そこで当初の研究の計画を変更して、ミシェル・セルヴェの著作を集中的に読み込み、そこから彼のエネルギーの語義、神学思想におけるエネルギー概念の意義と位置づけ、さらに、医学的エネルギー概念の萌芽の形成を引き出すことに努めた。その結果、セルヴェのエネルギー概念は彼の宗教思想において重要性を有しているだけでなく、初期近代に形成されてゆく物質的あるいは科学的なエネルギー概念の形成を先取りしていたことが明らかとなり、17世紀・18世紀初頭にかけて自然学的エネルギー概念の形成に寄与したライプニッツやジョン・トーランドのような思想家に間接的な形で影響を与えた可能性があることを論証できる準備が整った。さらに、18世紀半ばに著されたヴォルテール『諸国民の習俗と精神について』の中で言及されているセルヴェの神学思想を取り上げ、その思想的内実、ヴォルテールのセルヴェ解釈、18世紀におけるセルヴェ受容の一側面について考察した。 以上の研究成果は紀要論文2本にまとめ、そのうちの1本は現在入稿済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度開始当時の計画では、カルヴァンのにおけるルネサンスの人文主義的医学の影響を検討して、16世紀の人文主義と宗教改革との思想的連関に基づいて、神学的・自然学的エネルギー概念の形成史の解明にあたる予定だった。しかし、カルヴァンの神学思想以上に、同時代のミシェル・セルヴェの思想における神学的エネルギー概念から医学的エネルギー概念への転位ないし転化の過程が思想史上、極めて重要であるにもかかわらず、今まで論じられてこなかったことが明らかとなった。2018年度から着手した当該研究課題を遂行する上で、予定外ではあるが、ルネサンスから初期近代にかけてのエネルギー概念史形成史研究においてセルヴェに焦点を当てる研究が一つの決定的なターニング・ポイントになると考え、セルヴェ研究を計画に組み込むことにした。そしてその結果、セルヴェにおけるエネルギー概念の研究を大きく前進させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は在外研究期間にあたる。コロナ禍で渡航待機状態がしばらく続くことが見込まれるが、研究に集中できる時間が確保できるため、研究のさらなる推進が期待できる。2020年度に行ったセルヴェ研究はあと1本の論文執筆を残すのみで、ひとまず決着がつけられたので、今年度の研究テーマは17世紀のエネルギー概念形成史研究へと駒を進める。具体的にはフランスのガッサンディの粒子論的物質論に見られるエネルギー概念が16世紀の自然学からどのような影響を受けたかを明らかにすることを目標とする。それと並行して、イギリス医学における自然神学と医学の関係を、フランシス・グリッソンのエネルギー概念を通してたどる研究を開始し、西欧世界におけるエネルギー概念の広がりを捉えることを目指す。基本的には文献の解読が研究の中心となる。
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Causes of Carryover |
2020年度は国内外の学会出張のための旅費を予算計上していたが、コロナ禍で学会は軒並み中止もしくはオンライン学会に変更されたため、旅費を使用することが一度もなかった。次年度はコロナ禍の状況次第ではあるが、学会や文献収集で現地に行く機会には次年度使用額を旅費にあてる予定である。
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