2019 Fiscal Year Research-status Report
被差別部落からのアメリカ移民に関するトランスナショナルな歴史経験についての研究
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18K00115
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
廣岡 浄進 大阪市立大学, 人権問題研究センター, 准教授 (30548350)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
友常 勉 東京外国語大学, 大学院国際日本学研究院, 教授 (20513261)
関口 寛 四国大学, 経営情報学部, 准教授 (20323909)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 部落差別 / 人種主義 / 部落改善 / 日系人 / 沖縄 / 強制収容 / 国際労働力移動 / 研究倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の廣岡と研究分担者の友常は合同で、2019年8月に渡航調査を実施し、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコとロサンゼルスで討論および現地調査をおこなった。とくにサンフランシスコ州立大学では、同大学エスニック・スタディズ学部教員や日系コミュニティで文化活動を実践しているカリフォルニア大学デイビス校大学院生らから貴重な助言を得るとともに、協力関係を築くことができた。今回の調査を通じて、沖縄県出身者への聞きとり調査において、日本人移民の内部での沖縄県出身者にたいする差別の横に部落差別があり、ときに両者は競合を強いられる関係にも置かれていたという語りが記述されていることや、また、戦時中の強制収容所の中での部落差別についても、差別の言辞とともに記録されている事例を、いくつか教示された。そのほか、ロサンゼルスでは日本での聞きとりを裏づける成果があり、事例研究の手がかりを得た。 研究分担者の関口は、部落改善運動を内務省が呼びかけるために招集された細民部落改善協議会で紹介されたアメリカ移民の成功体験談について、その足どりをたどった成果を発表した。また、関連する講演をおこなっている。 なお、廣岡は、2019年6月15日に開かれた全国部落史研究会の大会シンポジウム「情報化社会と部落史研究の課題ー人名、地名、絵図などの公開に触れて」に登壇し、前年度に本科研費研究と同会とが共催でとりくんだ研究会での議論について報告するとともに、部落史研究がオープンアクセスの情況にどう向きあうのかをめぐる討論に参加した。記録は同会の会誌『部落史研究』第5号に掲載予定である(校正中)。ちなみに、これに重なる研究短文を世界人権問題研究センターの広報誌『GLOBE』に執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の研究成果のほか、同時代史への接続にかかわって、聞きとりの調整が動いており、新型コロナウイルス感染症の流行が収束すれば、具体的に進められるものと思われる。関連して史料調査や現地調査も計画中である。復刻版が出ている移民メディアへの史料調査は、やや遅れている。 なお、前年度に引き続き、絵図のオープンアクセスのありかたなどをめぐって、全国部落史研究会と共催の研究会「情報化時代における部落史研究の課題」を、2019年4月12日および2020年1月21日に持った(非公開)。この一連の議論のさなかに出された、2018年12月27日付け法務省人権擁護局調査救済課長より法務局人権擁護部長および地方法務局長宛て依命通知「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について」(法務省権調第123号)に接し、上述のシンポジウムでも論点となったことをうけて、廣岡においてもこれにたいする批判的検討の必要性を感じたが、脱稿にはいたらなかった。 また、2019年11月に韓国で開催された国際学術大会「「沖縄学」は可能なのか-ポスト伊波普猷時代の挑戦と展望-」に、友常とともに、研究協力者の金誾愛(キム・ウネ)氏(東京外国語大学)を派遣して、報告とともに情報収集にあたらせた。金氏の報告は、戦後沖縄における沖縄‐朝鮮関係を視野に、演劇運動が表象するマイノリティの国際移動を扱うものであり、また、シンポジウムへの参加をとおして、今日の「移動研究」(モビリティーズ・スタディーズ=移動論的転回)と本科研との接合のありかたをさぐった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では2020年度が補助期間の最終年度となる。国内調査や海外調査を積み増すことで、成果のまとめをめざすものとする。国内での史料調査については、国立国会図書館の憲政資料室に所蔵の日系移民関係資料の検討を課題として共有しながら進捗していなかったところ、前述の通り、2019年の渡航調査によってオンラインのデータベースやアメリカでの研究状況などについて重要な教示をうけた。アメリカにおける調査研究の蓄積を活用すると同時に、日系コミュニティの文化運動とつながることで、研究の意義と課題とを共有し、もって継続の方向性を議論していきたい。 ただし、新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックのため、いくつかの計画変更も想定される。たとえば渡航調査については、年度開始時点でアメリカ合衆国が日本からの入国者にたいして、入国後14日間は自宅等で待機させる措置をとっており、これの解除の時期は見通せない状況にある。情勢を注視しながら、研究協力者とも連絡を取りつつ、可能性を探りたい。また、日本国内においては緊急事態宣言をうけて各大学で遠隔授業が導入されたことでその対応に教員は相当の労力を割かざるを得なくなり、研究活動については当面の期間は対面での研究会開催ができない、国内での調査旅行が認められないなどの制約がかけられている。これらの緩和も段階的におこなわれるものとみられているが、事態の推移を見守りながら、柔軟に対応を探りたい。 なお、研究代表者の廣岡は科研費の「国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))」に2019年度採択をうけた(「日系アメリカ移民をめぐるトランスナショナルな歴史経験の重層性に関する文化交流史」研究課題番号19KK0297)。渡航時期なども上述の事情から調整中であるが、本研究の研究分担者や海外共同研究者とも連携しながら、本研究の課題をさらに深めていけるものと期待される。
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Causes of Carryover |
初年度に計画しながら延期した渡航調査にあてるつもりの予算から残額が生じたもの。玉突きで次年度に渡航しての継続調査を検討しており、その支出に充当する計画である。
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Research Products
(6 results)