2020 Fiscal Year Research-status Report
A Logical and Empirical Investigation of the Definition of Art by Analyses of Hard Cases
Project/Area Number |
18K00120
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 俊彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10219587)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 芸術の美的定義 / コンセプチュアルアート / 視覚 / 意図 / 同型対応 / 本質主義的定義 / 非認知主義 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
「芸術の定義」の研究を、哲学史・思想史・科学史における主要概念の定義の歴史を参照することで、重層化することを想定しつつ、その準備を完了した。 6月に公表した論文"The Holistic Definition of Art" (JTLA, vol.44)では、芸術定義として本質主義的な美的定義が最も有望である理由を、芸術以外の文化諸分野との比較という観点から体系化した。7月に公表した論文「芸術形式としてのジョーク」(『美学芸術学研究』38号)では、芸術定義で最も問題視されるコンセプチュアルアートを美的概念のもとに包摂するカギとして、「ジョーク」概念を提起した。学内公開研究会の音声記録をもとに3月に公表した論文「「芸術」の終焉と「芸術学」の終焉」(「Sustainabilityと人文知」報告書)では、長らく追い続けてきた「人間原理anthropic principle」による芸術観を、SDGsのパラダイムのもとでまとめる作業を行なった。また、『美学の事典』美学会編、丸善出版(12月)の項目執筆三件において、芸術の定義と存在論の論理関係を明らかにし、分析哲学の歴史を概観するための評価軸を提示した。啓蒙書として4月に刊行した『東大の先生! 超わかりやすくビジネスに効くアートを教えてください!』のような書籍や、「バンクシーが世界でウケる3つの理由」(RESIDENT Online、6月)などのエッセイを通じて、折々に研究の進展を自省的に確認することを心がけた。 「芸術の定義」は、それを達成することが第一の目標ではなく、定義の可能性とその条件を探ることから、芸術に多角的な光を当てることが目的である。とはいえ、「美的」という概念の歴史を他分野の諸概念の歴史と比較することから、有力な芸術定義の範囲を制約することには成功しつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
芸術と他分野との比較の観点が比重を増してきており、論文を執筆する中で、新たな洞察をいくつも得られたのが、「当初の計画以上に進展している」と判断できる理由である。具体的には、コンセプチュアルアートを「ジョーク」という芸術形式の一形態と捉える観点の重要性に気づいた。また、同型対応的発見法の自然な帰結として、トランスジェンダリズムとコンセプチュアルアートの対応が極めて重要であることを発見し、目下、性別を決定する深層の身体的メカニズム(遺伝子など)と、芸術性を決定する潜在的な「意図」(制作者の信念と欲求の2項関数)との同型性を分析することに注力している。 2020年度中の公刊には間に合わなかったいくつかの執筆物がすでに完成しており、その中で、芸術定義論の24分類など、かなり体系的な類型論や概念芸術観を展開することができた。今後、一定以上の学術的意義を主張できる成果の達成については全く不安はない。
|
Strategy for Future Research Activity |
知覚性とは無縁な芸術作品(主として、知覚でなく概念に依拠するコンセプチュアルアート)の事例研究を少なからず行なう必要がある。そのさい、本来は視覚芸術に位置づけられる規範のもとで視覚性を帯びていない作品を主たる対象とするが、その比較項として、視覚性に特化した諸作品あるいは諸側面に肉薄する必要が生ずる。とりわけ、視覚性と概念性の比較(情報量、感性的効果など)を、芸術と他分野にまたがって比較するという、二層構造の比較作業に力を注ぐ。主たる方法は概念分析によるが、実際の作品や社会現象(都市環境にかかわる事例など)に即した実地調査を要する場合も考えられる。 芸術と科学、芸術とジェンダー、芸術とスポーツ、芸術と宗教など、芸術と他分野との同型対応に一定の体系化を施すのが本研究の主たる方法だが、そのさいに、視覚の身体性を概念の抽象性と最も先鋭に対比させる目的により、視覚の意味性より光学的特性を解析するアプローチをいくつか修得する。研究分担者として参加している基盤研究(A) 19H00524「道徳的行為者のロボット的構築による<道徳の起源と未来>に関する学際的探究」での知覚研究と連動させつつ、人工的視界のメタ知覚性(色収差、ケラレ、アイレリーフなど)と概念芸術のメタ知覚性との類比なども適宜分析する。そうした思弁性と即物性の方法的バランスのもとに、視覚経験が概念的にどう説明されるかという問題意識、また逆に、概念性が視覚的にどう図解や映像化されるかといった問題意識に即して、コンセプチュアルアート、境界科学、トランスジェンダリズム、都市環境計画などを総合的に研究する。ただし、総合を目的とするのではなく、あくまで、「芸術の定義」にとって主軸となる芸術・非芸術の境界事例であるコンセプチュアルアートの哲学的分析に役立つ限りにおいての総合であり、決して包括的文化論へ拡散することのない分析的収斂を目指す。
|
Research Products
(5 results)
-
-
-
-
-
[Book] 美学の事典2020
Author(s)
美学会編
Total Pages
768
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4-621-30542-3