2021 Fiscal Year Research-status Report
A Logical and Empirical Investigation of the Definition of Art by Analyses of Hard Cases
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18K00120
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三浦 俊彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10219587)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 芸術の美的定義 / コンセプチュアルアート / 意図 / 同型対応 / 視覚 / 機能主義 / ジェンダー / 第二次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
「芸術」の定義、広義には「芸術と非芸術の識別基準」について探究を続け、自然的性質による機能的本質主義、社会的規約による手続き的本質主義、定義を不可能視する反本質主義という3つの立場の対比の根拠を、他分野(倫理学、ジェンダー論など)との同型対応に求める構想を「芸術の諸定義――同型対応による認識に向けて」(2021年7月)で素描した。 基本は、機能的本質主義を最大限保持する立場であるが、その方向性を、ジェンダー・アイデンティティの定義との比較により補強することを試みた。2022年中に公刊予定の二編の英語論文“What is Gender as an Individual Identity?” JTLA(vol.46)と“Emotion and cognition in gender dysphoria” Mukhopadhyay,(Tirtha Prasad and Nagataki, Shoji (eds.), Emotion, Communication, Interaction: Emerging Perspectives,Taylor & Francis Group Publishers, UK.)は、芸術哲学の検証とともに、ジェンダー論もしくは心の哲学に対する貢献をも念頭に置いて書かれた。ジェンダー唯名論と美的機能主義との概念地図上の対応関係が明らかになりつつあるが、修正の必要性が認められ、考察を継続中である。 新たに着手した分野として、芸術制作上の「意図」の分析と、「非芸術の芸術化」の拡張的基礎付けがある。とくに、レディメイドやファウンドアートにおいて通例の「物的対象」だけでなく、「出来事」へ拡張する日常美学・環境美学的根拠の定式化に注力した。その暫定的な成果は、「美的対象としての第二次世界大戦」(『美学芸術学研究』40号)として2022年中に公刊予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
芸術と非芸術の関係構造を研究するという基本的枠組みの中で、「戦争」「ジェンダー」といった出来事や抽象概念を芸術哲学的方法論へ取り込むことに進捗が見られたことが、「当初の計画以上に進展している」と判断できる理由である。具体的には、ジェンダー唯名論と美的機能主義との対応を、潜在的メカニズムとしての「遺伝子」と「意図」との対応に依拠させていた昨年度までの知見から、顕示的要因としての「生殖機能」と「美的性質」との対応、環境要因としての「選択」と「制度」との対応などを取り込むまでに展開する目途が立った。 トランスジェンダリズムとコンセプチュアルアートの対応性が本研究の全体構想の中核をなすことに変わりないが、それぞれの分野の中で当該思潮が占める役割・地位がかなり異なっている可能性があり、そこから芸術哲学とジェンダー論の双方に洞察を開くという見込みもある程度描くことができた。 また、すでに定式化してあった芸術定義の24分類から、さらに分類数を増加させる方向での再定式化に着手している。分類増は、主として既定分類の細分化によるものだが、新たな分類項の設定も試みる予定であり(たとえば理論家だけでなくヨーゼフ・ボイスのような実践家の提唱した「社会彫刻」のような概念を一つの芸術定義として扱うなど)、それが「戦争などの〈出来事〉の美的対象化」のモチーフに直結している。この方面の考察・体系化も、全体像をだいたい描くことが出来ており、慎重に文献的裏付けの整理とともに論文化の作業を進めるのみとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
芸術と非芸術の比較、知覚性とは無縁な芸術作品の事例研究は、典型的な知覚芸術、とくに視覚芸術との対比のもとで行なわれる必要がある。そのさい、「視覚とは何か」を多方面から探究することと、芸術的人工物と非芸術的人工物の比較を多彩なバリエーションのもとで行なうこととの交点に、「光学装置」の取り扱いという分野が浮上してきている。各種の光学機器を視覚体験のために使用しつつ、それ自体を「人工物の哲学」の視点から研究対象とするのである。 方法・媒体でもありかつ研究対象でもあるという点で光学機器と並んで興味深いのは、聴覚領域における「音具」(シンギングボウル、ウィンドチャイムなど)である。楽器と音具の関係は、芸術的人工物と非芸術的人工物と関係を、「道具」の界面へ射影したものと解釈できる。 以上のような、光学機器・音具を足掛かりとした「非芸術的人工物」の研究によって「物的対象の芸術化」モチーフの基礎固めをすることで、非物的すなわち出来事的事物の美的対象視のモチーフに光を当てる。第二次世界大戦の美的対象視をさらに進め、今世紀に入って試みられながら挫折を続けた「テロリズムの芸術視」が美的文脈で可能か、あるいは少なくともコンセプチュアルアートの枠組みでは可能か、の考察に本格的に取り組む。 以上の作業は、芸術定義において問題提起の源となってきた「疑似的事例」を既成芸術作品の母集団から収集するだけでなく、可能的事例として提案するという能動的研究方法の試技とも言えるだろう。
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Research Products
(2 results)
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[Book] 這就是邏輯学2021
Author(s)
見里敏比古(三浦俊彦)
Total Pages
296
Publisher
広東経済出版社
ISBN
978-7-5454-7729-0