2018 Fiscal Year Research-status Report
Empfindnis概念の系譜学的検討―美学の「感性論的転回」への概念史的寄与
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18K00126
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 卓史 京都大学, 文学研究科, 准教授 (90644972)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Empfindnis / ヘルダー / メンデルスゾーン / アプト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、前世紀末以降進展中の美学の「感性論的転回」に掉さしつつ、「感性」に関連する重要な概念であるEmpfindnis(「感覚態」「再帰的感覚」「感覚感」などと訳される)に系譜学的な検討を加えるものである。本年度は、ドイツ啓蒙主義における用例を検討した。 第一に、この概念の成立過程を検討した。哲学文献における初出は、アプトの『功績について』(1765年)であり、そこでこの語は、フランス語のsentimentの訳語として、sensationの訳語であるEmpfindung(感覚)とともに導入されている。この〈sensation:sentiment=Empfindung:Empfindnis〉という訳語決定はスムーズに行われたものではなく、アプトとメンデルスゾーンとの往復書簡において複数の提案がなされた末の試行錯誤の産物であった。その意味で、この成果は啓蒙主義時代の独仏思想交流の一面を照射するものといえる。 第二に、ヘルダーにおける用例を検討した。彼は、若き日にアプトの前掲書に注目する中でEmpfindnis概念にも接していたが、晩年の『人間性促進のための書簡』(第41書簡、1793年)と『純粋理性批判のメタ批判』(1799年)においては、アプト(およびメンデルスゾーン)から離れて独自の意味で用いている。とりわけ、後者においてはカント批判という文脈で、「狂信(Wahnsinn)」「専制君主(Tyrann)」とも換言しつつ、否定的な意味で用いている。このことは、この概念の変容を物語るものとして、注目に値する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一方で、本研究課題とは直接の関係を持たない依頼講演・原稿が重なり(ただし、それらもドイツ啓蒙主義美学にかかわるものであり、本研究の「外堀」を埋めるものとして有意義であった)、当初予定していたテーテンス(『人間の本性とその発展についての哲学的試論』1777年、以下『試論』)におけるEmpfindnis概念の検討に着手できず、ドイツ啓蒙主義全体のEmpfindnis概念の見取図を描くには至りえなかった。この点は、否定的に評価せざるをえない。 他方でしかし、当初は来年度(第2年度)に予定していた、フッサールにおけるEmpfindnis概念についての検討の基礎作業(用例採取・整理)に着手することができ、さらに再来年度(第3年度、最終年度)に予定していた、ドイツ啓蒙主義におけるEmpfindnis概念とフッサールのそれとを架橋する要素(ヘーゲルの哲学史講義、デッソワールの心理学史)について手がかりを得ることもできた。これらは、当初の計画を先取りするものとして肯定的に評価しうる点である。 以上を総合すれば、「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)本年度の未消化分である、テーテンス『試論』におけるEmpfindnis概念を検討し、それを本年度の研究成果に接続させてドイツ啓蒙主義全体のEmpfindnis概念の見取図を描く。 2)本年度の研究により明らかになった、アプト(およびメンデルスゾーン)における〈Empfindung - Empfindnis〉対概念の「輸入元」であるフランス語の〈sensation - sentiment〉対概念の出所を明らかにする。 3)当初の第二年度の研究計画である、フッサールにおけるEmpfindnis概念を検討する。
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Causes of Carryover |
次年度予定されている国際学会への参加に多額の旅費を要することを見越して不要不急の資料購入を見合わせたため。上述の国際学会への参加、ならびに、それと併せた未公刊草稿調査のための旅費に充当する予定である。
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Research Products
(3 results)
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[Book] Computational Aesthetics2019
Author(s)
Yasuhiro Suzuki, Katsushi Nakagawa, Takashi Sugiyama, Fuminori Akiba, Eric Maestri, Insil Choi, Shinya Tsuchiya
Total Pages
IX+85
Publisher
Springer
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