2019 Fiscal Year Research-status Report
Empfindnis概念の系譜学的検討―美学の「感性論的転回」への概念史的寄与
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18K00126
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉山 卓史 京都大学, 文学研究科, 准教授 (90644972)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Empfindnis / テーテンス / エルヴェシウス / コンディヤック / ボネ / フランス感覚主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、前世紀末以降進展中の美学の「感性論的転回」に掉さしつつ、「感性」に関連する重要な概念であるEmpfindnis(「感覚態」「再帰的感覚」「感覚感」などと訳される)に系譜学的な検討を加えるものである。本年度は、前年度に引き続きドイツ啓蒙主義における用例を、そのフランス思想との関係を顧慮しつつ、検討した。 第一に、前年度未消化であったテーテンスの『人間の本性とその発展についての哲学的試論』(1777年、以下『試論』)におけるEmpfindnis概念を検討した。同書前半部でテーテンスは、外的な何かによって自分の内部に何らかの物理的変化が引き起こされたことを、ただ受動的に、その内実を分節化することなく捉える「感触(Gefühl)」と、この変化を客観化・対象化した「感覚(Empfindung)」、そして、その中でも快苦の価値判断を伴った"Empfindnis"(ここでは「感情」という日本語が相応しい)とを区別して用いている。その際、彼はこの〈感覚‐感情〉の区分を、エルヴェシウス、コンディヤック、ボネといった、いわゆるフランス感覚主義者たちの〈sensation-sentiment〉の区分から取り入れている。 そこで第二に、このフランス感覚主義者たちの〈sensation-sentiment〉の区分の内実と、そのドイツ語圏への翻訳・移入過程を検証した。その結果、〈sensation-sentiment〉の区分がおおよそ<Empfindung-Empfindnis>と翻訳されてドイツ語圏に移入されたが、必ずしも厳密には対応しておらず、テーテンスや前年度検討したメンデルスゾーンらは、フランス感覚主義を大まかに捉えた上で自らの思想に摂取していたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の実施状況報告書において「今後の研究の推進方策」として記したこと――テーテンス『試論』におけるEmpfindnis概念の検討と〈Empfindung - Empfindnis〉対概念の「輸入元」であるフランス語の〈sensation - sentiment〉対概念の出所の解明――をほぼ消化し、ドイツ啓蒙主義全体のEmpfindnis概念の見取図を描くに至りえたため。
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Strategy for Future Research Activity |
1)本研究の出発点である、フッサールにおけるEmpfindnis概念について、その内実と出所を検討し、それが本年度の研究成果と接続しうるか否かを検証する。 2)ドイツ啓蒙主義において「感情」を意味するものとしてEmpfindnisという語が必ずしも定着せずGefühlに取って代わられた理由を文献学的に探る。
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Causes of Carryover |
参加予定だった国際学会の一つに校務の都合で参加できなかったため。次年度、本研究課題と関連する国際学会が新たに開催されることになったため、それへの参加費(登録料、旅費)に充当する。
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Research Products
(5 results)