2020 Fiscal Year Research-status Report
Dissemination and development of Japanese traditional musics in colonial Taiwan: focussing on the Showa period(1926-1945)
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18K00128
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
劉 麟玉 奈良教育大学, 音楽教育講座, 教授 (40299350)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳丸 吉彦 聖徳大学, 音楽学部, 教授 (00017138)
福田 千絵 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 研究協力員 (10345415)
小塩 さとみ 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (70282902)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 植民地台湾 / 日本伝統音楽 / 三曲 / 検番 / 邦楽 / ラジオ番組 / 台湾神社祭 / 昭和期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な研究実績は以下の通りである。 (1)研究会の開催:今年度は3回の研究会を開催し、それぞれ7月19日、12月28日、2月19日に行った。1回目と2回目の研究会は非対面で開催し、3回目は対面で開催した。1回目の研究会では、昨年度にCOVID-19の感染拡大のために開催できなかった国際コロキウムについて話し合い、開催に向けての準備と段取りについて確認した。2回目の研究会では、研究分担者が国際コロキウムで報告する予定の研究テーマと内容を提示し、研究の方向性を固めた。また、国際コロキウムの準備段階として、国立台湾大学音楽研究所との共催、開催日程と方法の確定などの情報を分担者全員で共有した。具体的には2021年3月27日、28日の二日間に渡り、Zoomによるオンライン開催をすることが決まった。そのため、昨年度仕事の都合上に参加できなかった研究者(日本、台湾、韓国)に発表候補者として再度依頼することを決め、その結果を台湾大学側に提案した。さらに、開催するまでの準備と連絡窓口を台湾大学音楽学研究所山内文登所長と本研究代表者劉麟玉が担当することが決定した。3回目の研究会では、各分担者がコロキウムで発表する内容の叩き台を準備し、報告した。
(2)国際コロキウムの開催:日程については、すでに(1)に述べたように、協議の結果、2021年3月27日、28日の二日間に渡って開催した。全体の研究テーマは“Japanese Colonialism and Music in Taiwan and Korea”である。参加者13名のうち、日本からの研究者は8名、韓国からは2名、台湾からは3名であった。各発表者は植民地における日本伝統音楽の歴史研究、植民地における伝統音楽の歴史研究、植民地における西洋音楽の受容史の研究について議論し、有意義な時間となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染状況の影響で、当初予定していた台湾での聞き取り調査が実施できなかったため、その成果を上げることはできなかった。そのため、代表者と分担者はすでに入手した史料・資料を中心に用いて、分析・考察を行った。2021年3月27-28日に開催されたコロキウムでは、代表者と分担者が各自の研究テーマに基づいて研究発表を行った。それぞれの発表内容は今年度の研究成果でもある。まず、徳丸が、植民地において国家主義(国家神道)と西洋化を推進した日本の文化政策が、社会資本・社会関係資本・個人生活に関係したこと、植民地には日本の伝統音楽ではなく唱歌を中心とした西洋音楽の導入を推進したこと、その成功は「儒教的音楽観」、「高い識字率」と「折衷主義を肯定する態度」という3つの要因があることを指摘した。劉は、植民地台湾の邦楽の普及における検番の役割を明治期から昭和期の新聞記事に見られる検番活動を通して考察し、検番が台湾総督府の行事、チャリティ活動などに参加していたこと、検番が明治時代から台湾神社祭のために余興を提供してきたが、1930年代後半になると出番が減少したことを明らかにした。福田は、植民地台湾における日本伝統音楽の一ジャンルとして三曲を取り上げ、流派を超えて結成された三曲の団体に注目し、1930-40年代にかけて設立された方向性の異なる3種類の私設の組織(台北尺八専門家協会、台北好楽家協会、台北三曲協会)を取り上げて、流派を超えた結束及び内地との関係性に注目して考察を行った。小塩は、日本植民地台湾における長唄の普及の過程を先行研究および台湾で発行された月刊誌『台湾邦楽界』や日刊紙『台湾日日新報』のラジオ欄の情報を通して考察し、台湾では長唄が公的娯楽音楽として愛好されていたこと、花柳界での演奏・教授活動の他に、一般家庭の稽古事としても愛好されていたことを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)現地調査:新型コロナウイルスの感染状況が改善されれば、2019年・2020年度にできなかった現地調査と聞き取り調査を再開したい。時期として2022年の3月中に行うことを考えている。 (2)資料調査に関しては、台湾の漢珍出版社が提供しているインターネット検索サービスを利用して、台湾日日新聞の関連記事の閲覧およびデータの取得を行う予定である。また、今まで現地で取得した新聞・雑誌記事、一次史料と取得したデータを合わせて、整理、分析を行う。 (3)研究成果の公開:2021年3月の国際コロキウムで発表した内容を、台湾の学会誌『台湾音楽研究』の「特集」に投稿する予定である。2022年3月をめどに刊行できるように着手する。国際コロキウムの二日間は発表者が多く、議論する時間が不足したため、2021年度の7月に2回に分けて討論会を開催する予定であり、その際に得られた外部の研究者の意見を、特集号の論文に還元したい。さらに将来的には、国際コロキウムの発表者全員の論文を論文集として出版することを検討している。また、いままで作成したデータベースの一部を台湾中央研究院GISセンターのウェブサイト上に公開する予定だったが、対面でコミュニケーションをとることができなかったため、進展が停滞している。2021年度中に先方と積極的に話し合い、成果公開の可能性について働きかけていく。
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Causes of Carryover |
今年度は昨年度に続き、新型コロウイルス蔓延の関係で台湾への渡航および国内における県外への出張を自粛したため、国内旅費および海外出張旅費に関して使用額が減じ、次年度に繰り越すことになった。 次年度の使用計画は以下の通りである。(1)旅費に関しては研究会開催のための国内旅費と、現地調査と聞き取り調査のための海外旅費を一先ず計上する。国内旅費については、新型コロナウイルスの感染状況を鑑みて、可能な時期に投稿論文の内容についての検討や台湾の現地調査の準備と情報交換のため、1-2回の研究会を東京において開催する予定である。海外旅費に関しては、台湾の現地における聞き取り調査と資料調査も実施する予定であり、約5日間の滞在費用を計上する。(2)物品代:台湾日日新報のネット版を契約する費用を計上する。(3)謝金については、台湾師範大学歴史学科の助言および資料調査の研究補助者に支払う謝金を計上している。また、聞き取り調査を実施することが可能な場合は対象者に一定の謝金を支給する予定である。(4)研究報告書の印刷費用を計上する。
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