2018 Fiscal Year Research-status Report
インドネシアにおける大正琴の受容と変容に関する民族音楽学的研究
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18K00130
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Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
梅田 英春 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (40316203)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バリ島 / 大正琴 / マンドリン / ププアン村 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、インドネシアに戦前に輸出され、各地域に根付き、その伝統音楽に対応するように楽器の形を変えていった大正琴の形態とその音楽に焦点を当て、インドネシアにおける大正琴(プンティン、ノリン、マンダリオン)の受容と変容について、現地でのフィールドワークを通して明らかにすることを目的として実施している。 今年度の調査の中心はバリ島西部(バリ州タバナン県ププアン郡ププアン村)に伝承している大正琴を起源とする楽器マンドリンmandolinの調査を集中的に実施した。この地域では、1930年に華人の手を通して楽器を入手したイ・クトゥ・ラストラ I Ketut Lastraが新たに製作した楽器が、マンドリンの起源になったと伝承されている。ププアンはバリ島の山間部にありながらも、古くから華人集落が存在する地域であり、さらに華人がこの地域の商業経済を担っていたことから、日本から輸出された大正琴が、華人たちの手により山村のププアン村に伝播した可能性が調査を通して高まった。 ププアン村で製作された古い楽器は日本から輸出された大正琴とほとんど同型であるが、音階は五音音階の楽器に変化した。当時はマンドリン(2台から3台)、竹笛スリン suling、竹製口琴ゲンゴン gengongの三つの楽器だけのアンサンブルであり、友人が集まる場なので演奏されたという。しかし1991年には完全演奏されなくなった。今回の調査ではププアン村出身の音楽家イ・マデ・ウィアルタワン I Made Wiartawanが、2000年に楽器を復興させ、大編成のアンサンブルを結成、また2007年には全音階の楽器を製作し、洋楽とのコラボレーションができる楽器となっていた変化とその背景について明らかにした。 なお、今年度は、バリ島とは別に2019年度に実施するスラウェシ島の大正琴を起源とする楽器の予備調査を行い、調査地を選定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度の調査状況はやや遅れている。バリ島西部の大正琴については、その伝播の背景、楽器の形態をはじめ、その変化について多くのインフォーマントを通して重要な情報を得て、そのデータや文献をもとに「バリ島西部ププアン村に伝承される大正琴を起源とする楽器マンドリン」『静岡文化芸術大学研究紀要』第19巻、pp.165-170として調査報告を発表した。 さらに今年度はこれまで全く研究成果のなかったスラウェシ島の予備調査を行い、マンダリオンとよばれる大正琴を起源とする楽器が、中部スラウェシのワジョ県、シドゥラップ県、ソペン県の周辺で演奏されていることがわかり、また、その演奏地域まで細かく特定することができた。この予備調査の結果は次年度のスラウェシの島の本格的な調査につながる大きな成果だった。 ただし、2018年9月に起きたスラウェシ島の地震・津波被害により、12月の予備調査ができず、年度末の3月に遅れて実施したことから、年度内には本調査を実施できなかった。このように実施計画の遅延の主たる理由は天災である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度はスラウェシ島に伝播した大正琴の調査を中心に据えて研究を実施する予定である。今回の調査においてスラウェシ島在住の民族音楽学者は、この島で演奏されているマンダリオンmandaliongが、インドから持ち込まれた楽器と考えている。この根拠は、マンダリオンにみられるドローン弦の存在である。来年度の調査では、マンダリオンの楽器形態、曲の種類やその構造、演奏法などを明らかにしたい。またこの調査結果は、今年度同様、研究報告としては大学の研究紀要などに執筆し、研究を公開していく予定である。 2020年度も引き続きスラウェシ島の楽器調査を継続するが、合わせて、ロンボック島、バリ島の調査(バリの場合は東部)も実施する。今回の調査で、スマトラ島にも大正琴を起源とする楽器が存在していることが明らかになったため、この楽器調査も実施したいと考えている。 最終年度(2021年度)には、各地の楽器の特徴の比較、音楽の比較を行い、学会発表や論文執筆などを行い、研究の総括をする予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度の夏に、スラウェシ調査を実施する予定であったが、中部スラウェシで大地震と津波の被害があり、秋の予備調査を断念したことの理由が大きい。また予定していた備品購入を見送ったことも理由の一つである。 2019年度は、備品の購入も含め、本格的なスラウェシ島調査を実施する予定であり、2018年度分と2019年度分を合わせた助成金を研究に有効利用する予定である。
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