2018 Fiscal Year Research-status Report
20世紀以降の器楽音楽と電子音響音楽における構造的音色表現の研究
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18K00132
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
水野 みか子 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 教授 (50295622)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 電子音響音楽 / 音色 / 1950年代 / 作曲 / 音楽学 / 音響における時間の可逆性 / オーケストレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代の音楽美学的課題として音色表現に着目し、「音色の諸相」を、音楽に関わる三つの学問分野(音楽学、分析理論、音楽情報処理)を横断する方法で明らかにしていく。このうち平成30年度には、まず、シュトックハウゼンやブーレーズが「音高、強度、持続」と並んで「音色」をひとつの独立パラメータとして認識した時期、すなわち 1950年代に集中的にとりくみ、その時期の音色概念について音楽学的に考察した。とりわけ、ピエール・ブーレーズの1950年代の著述と、ブーレーズがピエール・シェフェールのもとでのミュジック・コンクレート研修会に際して制作し、また制作を振り返って書き残したメモの類の資料を調査し、音色と音高の相関関係に関する音楽志向について考察した。音色感は時代によって異なっている可能性が高いが、その違いを明確にしていく一つの方法として、邦楽器における音高と音色の類同性の分析、異なる劇場空間における同一作品の聴感記述などを調査した。 並行して、ProToolsをはじめとする音響編集ソフトウェアを使用して、inverse、reverseなどのオペレーションが、ノート(音符)単位ではなく具体音響のデジタル処理としてどのような聴覚印象変化を起こすかについて、実験を行い、実際に電子音響音楽作品を創作して、時間の可逆性と聴覚認知を主題とする独自の音楽構造を考案した。その結果を、アジア・コンピュタ音楽プロジェクト、国際コンピュータ音楽会議、台湾コンピュータ音楽ワークショップなどで作品上演の形で発表した。また、国内では若手作曲家のコンクール入賞作品と合わせて、台湾、フランス、日本の現代電子音響音楽の発表の場を制作し、電子音響音楽における音色に関する研究交流を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度には、イタリア、タイ、台湾での国際研究大会や学会に出席して、論文発表、作品発表を行い、海外の研究者との交流が大きく進んだ。資料の調査対象を広げるなかで、各地域での研究状況を確認することができた。また、作品創作・発表のプロセスにおいて、音楽思考に関する具体的問題点を発見することができたので、音響における時間の可逆性について、今後の実験の方向性を明らかにすることが可能となった。音色パラメータやその構造的組み立てに関する研究動向調査については今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
音色パラメータやその構造的組み立てに関する研究動向調査については今後の課題となる。音色パラメータは作曲家たちによって1970年代以降、中心的な音楽概念となってきたが、その数値的定義については多義性があり、概念から事象データへの対応づけに課題が多い。今後は、創作者の言説を個々のケースに従って音楽的に分析し、楽派あるいは様式による書法の特性として論点をしぼるとともに、パターン別に音楽情報処理プログラムのアルゴリズム化を進める。
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Research Products
(7 results)