2018 Fiscal Year Research-status Report
Gnosis and Monism -- Modern Art Movement in Germany
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18K00139
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前田 富士男 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (90118836)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ドイツ近代美術 / プロテスタンティズム / ゲーテ自然科学 / 非・神話化 / 地質学 / モダニズム / アナクロニズム / エキュメニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の根本的な課題は、「歴史記述(Histriographie)」の現代的可能性の追究にある。具体的には4つの研究課題を提起した。すなわち、アナクロニズム論、ハプティク(内触覚)問題、モニスムス的自然観、グノーシス的存在論である。 2018年度は、10月から、5件の研究会・シンポジウム参加、講演を行った。年度当初より、そのための一次資料ならびに研究史の収集と把握を目指し、また2019年2月には、私費(助成費年度予算執行済みのため)にてドイツ・ミュンヘンの美術史中央研究所、またヴァイマルのゲーテ・シラー・アルヒーフほかで、資料調査を行った。ほかに年度当初から秋季にかけて、申請者の研究の今後のオープンな状況の基盤をなすドイツ語論文を作成した。 上記5件の研究会・講演とは、アナクロニズムに関して1.「近代美術における<旅>の非・神話化」(慶應義塾大学アート・センター、2018年10月、慶大)、モニスムス的自然科学に関して2.「建築の時間と彫刻の物語――美術の歴史とゲーテ」(ゲーテ自然科学の集い、同11月、慶大)、および3.「ゲーテの鉱物学と C.G.カールスの地景画」(形の文化会、同11月、秋田大)、4.「大地(Land)の芸術学」(慶應義塾大学教養研究センター、2019年1月、慶大)、そしてグノーシスとプロテスタンティズムに関して5.「20世紀美術のモダニズムとエキュメニズム」(明治学院大学言語文化研究所、2018年12月、明学大)である。 助成費のもとで、順調に多くの成果をあげることができた。とくに上記5のモダニズム美術とプロテスタンティズムに関する講演と論文(2019年3月)は、わが国ではほとんど着手されてこなかった問題圏の追究を開拓する貢献となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4つの研究課題、つまりアナクロニズム論、ハプティク(内触覚)問題、モニスムス的自然観、グノーシス的存在論について、おおむね順調に研究が進捗している。ただしハプティク問題について、2018年度は、建築・庭園空間における身体性の水準で検討を重ねたものの、内触覚をめぐる認知科学領域の問題には必ずしも照明をあてることはできなかった。これは、2019年度の課題としたい。 しかしながら、研究の進捗の観点から、より重要な領域と認識するのは、グノーシス的存在論にほかならない。なぜなら、グノーシス問題は神学的でありながら、二元論的世界観にたち、宗教的あるいは科学的一元論と対立するからである。そのために、研究の方位がかなり定めがたい。神学は、ドイツの大学を例にとるまでもなく、一般に欧米の文学部・哲学部において確立した専門領域ながら、つねに分化・対立を内含する。くわえてグノーシスは、その神学とも対立する。こうした状況は、認識論・存在論の哲学とも研究関心を異にするが、生の価値や歴史的文化観と直結している以上、回避しえない問題圏である。しかし、とくにわが国では、思想史・社会史・文化史にキリスト教神学を関連づける研究者は、非常に少ない。こうした領域に照明をあてる本研究は、ひとつの貢献となったと自己評価する。 すなわち、申請者は2018年度に、ヨーロッパにおけるモダニズム美術とプロテスタンティズム神学との関連の一端を解明し、新しい研究の道を開いた。これをさらに展開するために、2019年度には、京都大学名誉教授で、グノーシス研究者として知られる高橋義人氏を迎えてグノーシス、キリスト教神学と、美学や文学・美術などの芸術的感性との関連をさらに追究する予定である。また、申請者はドイツ・スイスにおける研究者と協働し、現代的な関心の地平を探索しつつ、研究を進捗させてゆく予定で、2018年度はその素地を整えた。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、主として美術史記述の方法論的な再構築のための基礎付けとなる理論研究を推進した。2019年度は、その現代的なアスペクトや展開、実践について、ドイツ、スイスでフィールドワークを行いつつ、申請者の立論の強化と外国専門研究者との認識の共有を図る。 まず、19世紀からの史料・史料のアーカイヴ研究の世界的な拠点ともいうべきベルリン・枢密国立アーカイヴ(Geheimes Staatsarchiv)、そしてベルリン美術図書館内のテッセノウ・アルヒーフ、またドレスデンのテッセノウ協会にてモニスムス的建築論の調査を行う。つぎに、スイス・チューリヒのC.Gユング研究所図書館にてグノーシスのコンテクストから画家クレーとユングの関連研究史を調査する。この調査のためには、チューリヒ大学ケルステン教授とゴッケル教授の協力をえる。なお、2019年はバウハウス創立100周年にあたるので、申請者は、形の文化会会長として、6月にシンポジウム「危機を戦う者たちのバウハウス──創立100周年記念」を企画・運営し、デザイナー浅葉克巳、三井秀樹筑波大学名誉教授、向井周太郎武蔵野美大名誉教授とともに、バウハウスの提示した生活世界の倫理の意味を問い、申請者はバウハウスを現代の神学的観点から検証する。 2020年度は、本研究の総括として、国際的研究会を実施する予定で、2019年の活動は、その準備の性格も持っている。2018年度の研究過程より、今日のAI・シンギュラリティの肥大化とともに、感性的直観さえ定量的認知の枠組みに収納される現代状況が明確になった。美術史学H.ベルティングや哲学A.ダントーの指摘する「ポスト・芸術の終焉」の状況を的確に把握し、今後の本研究では、芸術的・倫理的な想像力と作品制作行為論(Poiesis)の新しい地平を開示したく、芸術学と宗教哲学の専門研究者と協働を深める。
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Causes of Carryover |
図書購入の残金として次年度使用額1,262円が発生した。これは、次年度の消耗品費として使用する予定である。
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Research Products
(9 results)