2019 Fiscal Year Research-status Report
ポスター、絵本、マンガ等、近代の大衆的静止イメージ・メディアの原理に関する研究
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18K00145
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴木 雅雄 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20251332)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マンガ史 / 近代的視覚文化 / 静止イメージ |
Outline of Annual Research Achievements |
近代の視覚文化における、映画やテレビなど「動くイメージ」の重要性は疑いようがないが、イラストやポスター、マンガといった静止イメージ・メディアもまた、近代特有の「視の体制」に規定されている。そうした視覚イメージの構造の解明を目指し、2019年度も前年度に引き続き、マンガに関するワークショップと、19世紀のマンガに関する資料調査を行った。 前年度からの連続ワークショップ「マンガの体験、メディアの体験」は、2019年度は4回開催したが、毎回マンガ研究者と他分野(美術史、映画研究、表象文化論、身体論)の研究者を招いて報告を聞き、討論を重ねた。4月の第3回ではアニメーションや幻灯などの「動くイメージ」とマンガの比較対象というこの研究の中心テーマを正面から扱い、第5回では近代に特有の現象としての「キャラクター」にメディア論からアプローチ、第6回ではマンガ体験の場が電子媒体へと移行しつつあるとともに、他方ではマンガが美術館での展示物ともなっている現状を踏まえ、新しい享受形態から逆照射されるマンガというメディアの本質を考えた。12月の最終回は総括として、美術史、身体論、マンガ史の第一人者から近代視覚文化史におけるマンガの位置づけという根本問題についての考えを聞くとともに、私自身も前年度・今年度の研究成果を踏まえ、19世紀フランスの作品を中心に、マンガにおける「コマ」の成立と変化について発表した。 資料調査としては、ネット上で閲覧できる19世紀フランス語圏のマンガ作品の研究を続けるとともに、9月と3月に渡仏し、ネットで閲覧できなかった作品へのアクセスに努めた。19世紀フランスの定期刊行物では、マンガ、イラスト付きの読み物、カリカチュアなどの境界が不明確だが、これらの領域を横断するカムのような描き手に焦点化することで、近代的メディアとしてのマンガの成立プロセスを明確化する作業に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要欄に記したとおり、連続ワークショップの開催と、個人での資料調査および収集した資料にもとづく研究が2本の柱になるが、両方とも全体としては順調に進展したといえる。フランス文学研究者であるとともにマンガ研究者でもある中田健太郎氏の協力をえて進めたワークショップは、中田氏の人脈もあって、マンガ研究だけでなくさまざまな分野の先進的な研究者に参加してもらうことができ、毎回多くの聴講者(50~70人)を集めるとともに、非常に有意義な議論を展開することができた。科研費を利用して開催するマンガ研究のワークショップは今回が3期目で、これまでの2期の成果はそれぞれ論文集として刊行されているが、今回もこれまで同様に水声社から論文集を刊行予定で、編集作業を進めている。 資料収集についていうと、3月の渡仏ではコロナ・ウィルスの影響で図書館の利用が制限される面はあったが、参照したかった資料のかなりの部分にはアクセスすることができ、またマンガ研究の分野ではウェブ上の情報の増加速度がかなり速いこともあって、大きな遅れにはつながらなかった。研究成果の公表という点では、上記ワークショップでの発表と論文1本にとどまったという意味で十分とはいえないかもしれないが、ワークショップの成果であり、この研究の総括でもある論文集の準備はとりあえず順調に進行中である。 近代メディアとしてのマンガの生成については、19世紀前半のスイスで活躍したロドルフ・テプフェールと、19世紀末から20世紀初頭におけるアメリカのマンガとが、2つの決定的な段階を表現すると考えられてきた。以上のような研究を通じて、この2つの段階の関係をどのように捉えるかという根本的な問題について(いまだ不明確な点は多いが)一定の見通しを持つことができたという意味でも、最終年度に向けた基礎作業はおおむね順調に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度も、19世紀から20世紀初頭にかけての欧米のマンガに関する資料調査を続行するとともに、ポスター、絵本、小説や定期刊行物のイラストなどその他の静止イメージ・メディアを含めた理論的な総括を試みる。具体的には、2018年度から2019年度にかけて開催したマンガをテーマとするワークショップの成果を論文集として刊行し、そこにこの研究の成果を発表したい。 ただ資料調査については、フランスとアメリカにおけるマンガと絵本に関する資料調査を予定していたが、この作業は新型コロナ・ウィルスをめぐる状況がどのように進展するかによって、大きく影響される可能性がある。2019年度の作業の結果、英語圏のマンガや絵本については既存の研究を援用しつつ、実証的な資料調査はフランス語圏について集中的に行うことが有効であるという感触をえたので、8月後半か9月上旬に再度渡仏するという希望を持っているが、滞在地や滞在時期・期間については、可能な範囲でもっとも有効と思える選択をしていくよりないだろう。 他方ワークショップの成果をもとにした論文集については、連休明けに原稿を集める予定だったが、多くの図書館が長期間使えない状況だったため、実証的なタイプの論文を準備している執筆者から締め切りを変更してほしいという要望があり、原稿が揃うのは8月になる見込みである。だがこの日程でも2020年度中の刊行には間に合うはずなので、この点では計画の変更は必要ないと考えている。 以上のように資料調査と論文集の準備を並行して進めるが、この研究の成果は必ずしもマンガ論には限定されず、表象文化全般に関わるより一般的なイメージ論を含むものでもあり、こうした部分はマンガ論集の論文では全面的には展開しにくい。紀要論文などの形でそうした成果を公表することはもちろん可能だが、より広範な読者に向けた発信の可能性も模索していこうと考えている。
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Research Products
(2 results)