2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study of the Modulation Theory of the Ci Songs in Southern Song Era in China
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18K00149
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
明木 茂夫 中京大学, 国際教養学部, 教授 (10243867)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中国古典音楽理論 / 詞楽・詞学 / 江戸時代の雅楽 / 日本の音階 / 安倍季良 / 山鳥秘要抄 / 反音・返音・犯調 / 律呂 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画通り中国南宋の楽理書の解析に着手した2018年度初頭、豊田市中央図書館貴重書庫を調査する機会を得、偶然江戸末期の楽人安倍季良の写本『律呂』を発見した。そこには日本ではほとんど用いられなかったはずの中国俗音階が日本の音階と対応させて一覧表になっているなど、本研究と密接に関わる内容が含まれていることが判明した。そこで、中国の音階理論と並行して、この『律呂』の論ずる日本の音階理論を解析し、両者を互いに比較しながらその内容を解析することとし、まず『律呂』のデジタル画像化を行った。さらに関連する書物を全国の所蔵機関において検索し、『律呂』と同じ系統にあると思われる写本十数種の複写データを入手、それらを比較しながら『律呂』の本文を解読し、本文の翻刻、及び引用文献の洗い出しをほぼ完了した。さらに『律呂』と共通の内容を有しながら構成や分量の異なる異本に相当する東京藝術大学附属図書館所蔵『季良朝臣山鳥秘要録中律呂之論』、及び西尾市岩瀬文庫所蔵『呂律反音之事』についても本文の翻刻および音階・転調の解析を行った。こうしたことを通じて、『律呂』が現在非公開の安倍季良撰『山鳥秘要抄』の内の楽理部分を独立させたものであること、本『律呂』が彦根城博物館所蔵『山鳥秘要抄・律』と非常に近い関係にある写本でいずれも撰者安倍季良本人と直接に関わるものであることなどが明らかになった。 これらの研究成果は「豐田市中央圖書館藏安倍季良撰抄本『律呂』について ―解題及び『山鳥秘要抄』諸傳本との比較―」(京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター報告書『近世日本と楽の諸相』)、「東京藝術大学附属図書館蔵『山鳥秘要録中律呂之論』 ―解題と翻刻」(中京大学文化科学研究所『文化科学研究』Vol.29)、「西尾市岩瀬文庫所蔵江戸期抄本『呂律反音事』 ─翻刻と考察」(中京大学図書館『中京大学図書館学紀要』)にて公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は中国宋代の音楽理論書について解析を行う予定であったが、偶然にも従来ほとんど知られていなかった江戸末期の雅楽理論書を見いだし、その本文翻刻や注釈作成を行った。中国の音階理論に基礎を置きながら、中国の音階とは異なる発展を見せる日本の雅楽音階について、両者を比較しながら分析できることは当初予期しなかった展開である。これにより、中国古典のみならず日本の資料を追加することができ、古典的音階理論や転調理論についてさらに比較・分析するための文献学・書誌学的な基本データが得られたと考えている。また日本伝統音楽史の研究会で本書について報告を行い、関係諸氏から様々な教示を得ることができたことも幸いであった。
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Strategy for Future Research Activity |
中国宋代の音楽理論書については、その転調理論である「犯調」について継続して解析を行う。また新たに見いだした日本の江戸末期の雅楽理論書『律呂(山鳥秘要抄)』については、その全文の本文翻刻、挿入された図表の校訂とデータ化、引用書目の洗い出し、本文解読のための注釈作成を進めて、早急に紀要等で公開する。それに基づいて、日本の雅楽や声明に用いられる転調理論である「反音(返音)」について、先行研究を踏まえつつその内容や実態について解析する。特に歴代の文献や演奏習慣を踏まえて、江戸末期の雅楽理論家が「反音(返音)」をどのように理解し、そして子孫や弟子にどのように伝授しようとしていたかについて考察する。
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Research Products
(6 results)