2020 Fiscal Year Research-status Report
Another History of Modern Japanese Music: Reevaluating the Creative Performing Activities of Female Musicians in the Taisho and Early Showa Periods
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18K00155
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
津上 智実 神戸女学院大学, 音楽学部, 教授 (20212053)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 永井郁子 / 邦語歌唱運動 / 宮城道雄 / 吉田晴風 / 新日本音楽 / レート白粉本舗平尾賛平商店 / 冠コンサート |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究成果は次の2本の紀要論文として公表した。 まず「永井郁子と宮城道雄:共演の実態と意義」では、ソプラノ歌手永井郁子(1893-1983)と箏曲家宮城道雄(1894-1956)が1926年以降に行った共演の実態と意義を解明した。新聞・雑誌記事と演奏会プログラムの調査から次の4点が明らかになった。1)最初期の共演3回は異例とも言うべき大きな反響を呼んだ。2)永井は最初の半年余りは専ら宮城と吉田晴風と組んだが、その後、地方都市では各地の邦楽奏者と共演し、宮城の共演は東京に限られた。3)邦楽奏者との共演は32都府県に及び、植民地の樺太・朝鮮・満州・台湾と上海でも行われ、レコード産業やラジオ放送の力も相まって、宮城歌曲の演奏と聴取を全国に広めていった。4)永井にとって宮城との共演は、伴奏者の技量と音楽性によって演奏の質と聴衆の反応が大きく変わることを実感させた点で意義深く、互いに大きな財産となった。 次に、「音楽的化粧水レートソプラと永井郁子:1929年秋の演奏旅行を考える」では、永井郁子がレート白粉本舗平尾賛平商店とタイアップして行った1929年秋の演奏旅行について、実態を明らかにすると共に、その社会的な意味を考察した。調査の結果、東京から関西、中国、四国、九州の14都市で少なくとも23回の独唱会を実施し、いずれも大入りであったことが判明した。これは新化粧水「レートソプラ」の記念行事として行われたもので、新聞広告を多用しながら、各地の化粧品店とレート会の顧客ネットワークを通じて展開された。化粧品会社による冠コンサートが盛んになるのは戦後の1970年代であり、1929年という突出して早い時期に行われた平尾賛平商店による一連の永井郁子独唱会は、極めて先駆的な例と位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「もう一つの日本近代音楽史~大正・昭和初期の女性音楽家の創造的演奏活動を再評価する」と題する本研究は、本来、ピアニストの小倉末子(1891-1944)とソプラノ歌手の永井郁子(1893-1983)、同じくソプラノ歌手の荻野綾子(1898-1944)の3人を主対象として立案された。この内、小倉末子と永井郁子については順調に調査・研究が進んできたが、2020年春からの新型コロナ・ウイルス感染症の拡大による図書館等の外部利用者謝絶のため、3人目の荻野綾子については、本格的な調査に掛かるタイミングでストップしたままの状態が続いている。緊急事態宣言が繰り返し発出ないし継続される現状に鑑みると、荻野綾子の史料調査を科研の研究期間内に実施できる可能性はますます低くなっているように思われる。ワクチン接種等の拡大によって、学術機関が外部の研究者に門戸を開いてくれる日を待ち侘びている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の理由により頓挫したままの荻野綾子研究については、今後も再開不能という状況も想定して研究計画の抜本的な改変を迫られるのではないかと危惧している。同時代の、しかしタイプの異なる3人の女性音楽家たちを俯瞰的に論じることを主眼としていたので、それが実現できないのは非常に残念であるが、日本の近代音楽史研究として、埋もれた史料を掘り起こして新たな光を当てるというプロセスは割愛すべくもないものであり、それが実施できない以上、別の可能性を模索する他ないのではないかと考え始めている。 なお、永井郁子の邦語歌唱運動については、モナシュ大学(オーストラリア、メルボルン)の時田アリソン教授から、英文の共著への投稿を求められているので、'The Rise of Japanese Art Song' と 'NAGAI Ikuko's “Movement for Singing in Japanese” (1925-1941) and her collaboration with MIYAGI Michio' の2章をこの夏に仕上げて、寄稿する計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウイルス感染症拡大による緊急事態宣言等の影響で、資料の所蔵先が長期閉館してしまうといった事態が生じており、思うように調査を進めることができない状況が続いているため。事態が改善され次第、予定の調査を再開したいと望んでいる。
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Research Products
(2 results)