2018 Fiscal Year Research-status Report
Study for reviving and succession of lac farming in Cambodia and surrounding countries as an art and craft material
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18K00166
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
北川 美穂 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 研究員 (60622537)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ラック / ラックカイガラムシ / ラック色素 / 天然染料 / 臙脂 / 資源昆虫 / カンボジア / ブータン |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年6月後半と12月中旬の2度(一部外部資金利用)カンボジア、シェムリアップ郊外にあるクメール伝統織物研究所(以下IKTT)の「伝統の森」地内で、ラックカイガラムシの宿主木を調査、可能な範囲で種を同定した。同時に、カンボジア国内のラック生産の情報のあったクラティエ地区、クーレン山、アンコールワット周辺の森林等でラックカイガラムシの調査を行ったが、残念ながら生体の確認には至らなかった。しかし、この調査により見つかったかつてのラック生産者の情報により、12月初めにIKTTがタイ産のラックカイガラムシの卵を入手、カンボジア産のラックカイガラムシを育てるにあたっての実験練習も兼ね、「伝統の森」内の4種の宿主木に接種した。年度末現在、ラックは2種の宿主木で生育中である。また、7月、12月にはタイでラック養殖と利用について現地調査と情報交換を行った。 同10月、ブータンで2名のラック養殖農家の活動と、離農世帯の動機を確認。染織技術者の協力を得て、新旧ラックの発色の差を確認したほか、ラディ地区、メラ地区、インド・ダランガ地区でラック染め及び化学染料を用いたラック色の染め技法と副材料、流通と利用の現状について調査を行った。 2019年3月2日に京都府立大学稲盛記念会館104講義室にて第三回ラック研究会・講演会「ラックで染める」を、金沢美術工芸大学元教授の城崎英明氏、ヤクランド久保淳子氏、染色家青木正明氏、研究代表者の4名の講演とポスター、現物展示等を行い、合計103名の参加者があった。この前日には講演者による5種の異なる手法によるラック染めのワークショップも開催し、これらの様子はビデオで記録した。 この他、6月には京都市内でインドの天然染色工房の技術者スフィヤン・カトリ氏による木版摺り染めワークショップを企画したほか、綿臙脂に替わるラック色料の開発と、ラック色素の顔料化実験も継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
カンボジア国内の複数のラックカイガラムシの生息情報のうち、「伝統の森」に近い場所から調査を開始した。クーレン山は宿主木は豊富にあるものの虫の情報は得られず、クラティエ地区では天候不良と、生育地の大規模な樹木伐採の影響で3年ほど前に絶滅していた。アンコールワット周辺の森林では代表的なラック宿主木のひとつであるアメリカネムの群生は確認できたが、面積が広大であることからここでも虫は確認できなかった。 「伝統の森」地内のラック宿主木は年度末までに9種を確認することができた。近年、猛暑や多雨によるラックの凶作が続いているタイは、過去に政府の指導により、効率のよい2種の宿主木にに集約したことが凶作の原因の一つと考えられるため、カンボジアでは多種の宿主木にラックを分散させ、気候変動などによるリスクを軽減する他、最も発色の良いラックが育つ宿主木も確認したいと考える。6月からは温湿度データロガーを設置、ラックの生育に最適な気候条件についても他国のデータと比較する。 ブータンでは現在もラック養殖を行う最後の2件の農家と、1件の離農者から直接の聞き取り調査ができた。しかし、ブータンのラック農家の離農原因の第一にあげられる仏教思想における「殺生」の問題、農家の減少による品質の低下、仲買人の消滅による流通停滞と価格の高騰など様々な問題を解決する必要がある。長年ラックを利用している染め技術者と新旧ラックの発色と作業性の違いを比較する実験では、新鮮なラックを流通させる意義を再確認することができた。 第三回ラック講演会は、今回が初聴講という方に多くご来場いただいた。講演会での総合討議、前日開催のワークショップ、また、講演会後の情報提供もあり、綿臙脂に替わるラック色材の開発におおよその目処をつけることができた。また、インドの伝統木版摺り染めワークショップでは、インドの素材の性質と手順の意味を理解することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年6月にモンドルキリ州でカンボジアのラックカイガラムシ生体の発見をめざし調査を行う。生体が確認できた場合、宿主木、現地の気候環境や周辺の植生、土地の様子を調査し、可能であれば生きた卵が入ったラックを入手し、現地で行われているラックの養殖手法を踏襲した適切な時期に「伝統の森」の宿主木に移動する。カンボジア国内でのラックカイガラムシの生体が確認でき次第、適切な時期に研究協力者を同行しての現地調査を行うほか、引き続き他の地区の情報も収集する。 「伝統の森」内でのラック養殖については、将来のカンボジアの気候変動も念頭においた長期視点から、各宿主木のフェノロジーを記録し、生育中のタイ産ラックとも比較しながら、ラックの色が良く、暑さ耐性の強い宿主木と虫の種を選抜してゆきたいと考える。この他、現地協力者の土地での宿主木の調査や追加植栽なども同時に進める。ラックカイガラムシと宿主木の種の同定には国内外の専門家にも協力を仰いでいく。 ブータンにおいては、残る2件のラック農家と、ラック利用者である染織家が直接交流できる機会を設け、農家の養殖継続へのモチベーションを上げるほか、政府関係者やマスコミにもラックの保存にむけて働きかけを行う。 現在養殖観察中のタイ産ラックについては、インド天然樹脂研究所前所長のランガナタン・ラマニ博士のアドバイスから、6月は部分的収穫→部分移動にとどめ、本格的な収穫はタイと同時期である年末とする。十分な量のラックが収穫できればIKTTで染色試験を行う。 綿臙脂に替わるラック色材については、専門家に試作品を使っていただき意見を伺うほか、副材料の成分分析を行い、ラック生産地での加工を行うにあたり最も適切な素材と加工方法の検討を行う。普及活動としては、講演会のアンケートで希望の多かったラック色素に関連するワークショップを開催し、ラック色素についての認識を深めていただく。
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Causes of Carryover |
当該年度内でカンボジア国内でのラックカイガラムシの生体の確認がかなわなかったため、予定していた研究協力者との現地調査を行うことができなかった。本年度以降にカンボジア国内でラックカイガラムシの生体が確認できた場合、研究協力者の現地調査の旅費に充当する。
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Remarks |
公式ページ準備中
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Research Products
(2 results)